未来





グレイが吐き捨てるように――いや、実際吐き捨てた。

「付き合ってらんねえ」
「と、いうことは結婚!」
「なんでそうなんだよ!?」

立ち去ろうとしていた身を翻して、グレイが叫ぶ。悲鳴のようなそれを耳障りに思って、ナツは眉を寄せた。ジュビアはくねくねと身を捩りながらハートを飛ばしている。
グレイとジュビアのやり取りは今に始まったことではないが、だからと言ってナツが慣れることでもない。ここまでおおっぴらにアプローチされておいていつまでも受け入れないグレイに、モテ自慢か、と苛つきさえする。

「結婚したきゃすれば良いんじゃね」
「ジュビアの味方!」
「てめえ、他人事だと思って!」

実際他人事だ。本気で嫌なら顔を合わせなければ良い。
ジュビアが嬉しそうに顔を輝かせたことにはぎょっとしつつ、ナツはぺい、と片手を振った。

「オレ関係ねえし」
「だったら黙ってろよ!」
「結婚は素敵なことですよ!ね、ナツさん」
「はあ?」

巻き込まれたことをはっきりと自覚して、ナツは首を引いた。余計なことを言うんじゃなかった、と後悔する。

「オレは興味ねえよ。結婚なんて」
「ジュビアの味方じゃなかったんですか!?」
「いあ……」

グレイの味方でないことは確かだったが、さりとてジュビア側に付いたつもりもない。面倒くさくなってどこか逃げ場を探すと、カウンター席にルーシィが居るのを発見した。
その視線を遮るように、ジュビアがさっと割って入ってきた。

「で、でもほら!いつかは結婚するでしょう?さあ、グレイ様に結婚の素晴らしさを」
「別にオレはそんなんどうでも良い。ルーシィとハッピーが居れば良いし」

今の状況を維持できれば結婚の必要性を感じない。そういう未来に現実感がなかった。

「えっ?」
「あん?」

ジュビアが目を丸くした。反応の意味がわからず、ナツは首を傾げる。
グレイがにやにやと笑いながら、ナツの座っていたテーブル席に手を突いた。

「ほー、ルーシィが居れば良いのかよ」
「なんだその気持ち悪い顔。あ、元からか」
「てめえ!」

喧嘩を売っているわけではなく、本当に心の底から気持ちが悪いと感じたまでだった。見透かしたような、それでいて押し付けるような――強制的に足元を見つめ直させられる、不安になるような笑い方だ。
気が入らない状態で睨み返していると、ジュビアが「恋敵を減らすチャンス!」と呟いた。彼女の目が光ったような気がして、ナツはびくりと肩を揺らした。普段はそうでもないが、ジュビアの迫力には瞬発力のようなものがあって、時たま気圧されることがある。

「ナツさん、ルーシィがお嫁に行ったらどうするんですか」
「へ?ルーシィ前に言ってたぞ?嫁に行けねえって」
「お前何したんだよ……」

そんなことをいちいち覚えてはいない。肩を竦めたナツに、ジュビアはなお食い下がるように質問してきた。

「じゃあ逆に、ルーシィに結婚してって言われたら?」
「そっ、そんなん……そのときに考える」

顔が赤くなるのを感じながら、ナツは言葉を濁した。そんなこと考えただけで恥ずかしくて居た堪れない。

言われるくらいなら自分から言った方がマシだ。

首の後ろをさすって、頭の中でウェディングドレスを着たルーシィを追い払う。ふとグレイに目を移して、ナツは眉を下げた。

「そっか……お前も苦労してんだな」
「あ?何だよ?」

グレイの今の状況は、ナツが想像したくないそれと同じだ。この感情を絶え間なく味わうのは辛すぎる。

「そりゃイヤだよなー、結婚結婚言われたら」
「なんでいきなりオレのことになんだよ」

グレイの方から言える隙を与えてやれば良いのだ。
アドバイスしようとジュビアを振り向いて、ナツは水流に飲まれた。

「ナツさん?それ以上言ったらジュビア……」

警告が後から無意味に耳に届く。もう絶対関わらねえ、とナツは心に決めた。






2015.4.3-2015.5.31拍手お礼文。


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