「そうじゃなくて」
言いかけた瞬間、ルーシィの目が大きくなった。
「えっ、あっ?なっ、何言ってんの、あんた!?」
ようやく気付いたか。しかもダメって言いそうだな。
でもそんなのは予想通りだし。ここから説得すんのが面白いんだよな。ルーシィが折れる瞬間って、何度見ても楽しい。
「良いじゃねえか、今日くらい」
「何が良いのよ!」
「しっ。ハッピーが起きるだろ」
「う」
よし。まずはトーンダウンさせることに成功した。ガンガン言われるとこっちもルーシィが正しいような気になってくるからな。それを阻止して、と。
「夢遊病になったら困るだろ?」
「そ、それとこれと何の関係が」
「ルーシィが一緒の方が、オレ絶対よく眠れるから、な?」
「……」
あれ?なんか反応が思ってたのと違う。ルーシィはぱくりと口を開けたまま固まった。んん?顔が赤くなってきた……具合でも悪ぃのか?
「ルーシィ?」
「っ、だっ、大丈夫。あんまり見ないで……」
えっ、なんで顔隠してんだよ。ルーシィのことだから、もっとこう、何がなんでも絶対ダメみたいなこと言ってくると思ってたのに。
良いのか?もう。
一緒に寝るってことで。
……なんだこれ。オレもなんか落ち着かなくなってきたじゃねーか。くそ、ルーシィがヘンにもじもじしてやがるからだ。ルーシィなんだからオレのわがままには殴ったり蹴ったりしろよ。もちろん避けるし言うことは聞かせるけど。
ルーシィは口だけ隠して顔を上げた。
「え、えと……本気?」
「ん?おう、本気本気」
「なんか軽い……」
仕方ねえだろ。普通に答えられるような感じじゃねえんだよ。つか、これオレ平気か?ちゃんと寝れるような気がしねえんだけど。
「……じゃあ、その……そ、そっち、行くから」
「お、おう」
やべ、どもった。やっぱオレまでおかしくなってる。
ルーシィは枕を抱えて、ゆっくりこっちに来た。やっぱり顔は赤いしもじもじしてる。ヘンだけど。いつもと違うんだけど。
けど――
「ぼえー」
「「へ?」」
なんだこの音。
「……ハッピー?」
「ぼええええー。オイラのぉおお、おさぁーかなぁああー」
振り返ってみたら、布団の上にハッピーが立っていた。
「やあ、オイラのお魚リサイタルへ来てくれてようこそー!」
「来てくれてようこそ、って……」
「ツッコむとこそこじゃねえだろ」
なんでいきなりルーシィのベッドの上で歌い出してんだよ。寝惚けてんのか?
ん?
「ハッピー?目……」
目ぇ閉じたまんまだ。でも見たことねえくらいに踊り狂ってる。今度はなんだ?魚取り出したぞ。
「今からお魚ジャグリングします!」
ってことは。
「もしかしてこれが夢遊病?」
「みてえだな。でもどうしてハッピーなんだ?オレじゃなかったのか?」
「うーん……普通に考えて、二人ともかかってた、ってことじゃない?」
そうか。まあ考えてみりゃ一緒に居たのにオレだけってのもおかしいもんな。
「そこぉ!盛り上がってるぅー!?」
「なんか指差してるわよ」
「見えてんのか?」
「オイラの第四の目は全てのものを見通すのじゃー!」
「キャラが定まってねえな」
「第三はどこ行ったのかしら」
放っておいても……うるせえか。
「おーい、ハッピー。起きろー」
「魚ばくだーん!」
「ぶべ!?」
うお、被弾した!生臭ぇ!
「オイラだって闘えるんだ!」
「おわっ、止めろ!くそっ、こうなったら……!」
「ちょ、ちょっと!やめて!あたしの部屋!」
結論から言うと、その日はオレもハッピーも眠れなかった。もちろん、ルーシィも。
マジで拷問だ。寝られないだけじゃなくて、一晩中説教食らうなんて。