オブラディ オブラダ





部屋いっぱいに広がるオレンジの光に気付いて、ルーシィは本から顔を上げた。カップ三分の一ほどに減ったハーブティはすっかり冷めている。
そろそろ夕飯を作り始めた方が良い。考えて、ルーシィは小さく笑った。きっと、出来上がる頃にはこの部屋に人と猫が増えるだろう。

いつものように。

献立と食べてくれる彼らの笑顔を思い浮かべて、ルーシィは一度目を閉じた。きゅぅ、と胸が締め付けられるように痛む。

「好き」

言葉ではなく、想いを呟く。それは自分の中から何かが流れ出していくような更なる痛みを生んだが、ルーシィは心臓に手を当てて微笑んだ。目には見えない、幸せというものを確かに感じる。夕焼けさえ温かい。

「ナツ……」

自分がナツに異性としての『好き』を持っているのだと、ルーシィは緩やかに受け入れていた。気付くというほど突然ではなく、少しずつ、少しずつ――進行していく病のように、ルーシィに浸透していく。

「ナツ、好き……」

伝えたい気持ちがないわけではなかったが、今はただ、零すだけで精一杯だった。抱えきれないほど好きだと感じるときに、ひっそりと自分に刻む。
しかし溢れても溢れても、一向に減る様子がない。身体の周囲にわだかまって、ルーシィを強く支えてくれる。

恋という感情はナツに似ている。

自分の発想にくすりと笑って、ルーシィは本を置いた。立ち上がって、振り向いて。

そして、居るはずのない桜色に、固まった。

「な……」
「……ルーシィ、今」

目を見開いている。呆然と立ち尽くしている。口が動いている――。
錯覚であって欲しかったが、間違いなくナツが居た。

「いっ」

何時からそこに。

「いっ……」

今の聞いてた?

「い……」

いや、これは違うの、冗談で。

あまりの混乱で咄嗟に言葉が出ない。
ナツの呟きが、ぽとりと部屋の真ん中に落ちた。

「ルーシィが、オレを、好き?」

脳を焦りが埋め尽くす。何か言わなくては、と口を開けたが、一瞬早く、ナツが首を振った。

「お、オレ、そんなの考えたことねえよ!?」

息を吸うことも吐き出すことも出来なくなった。
強張った表情筋を咄嗟に俯くことで隠す。唇を噛む動作はかなりの時間がかかったように感じた。
ショックだった。
ナツと一緒に居ると楽しかった。自分じゃない誰かと居るときよりも、ナツの笑顔は輝いて見えた。
だから、ナツから自分の気持ちを拒否されるとは思っていなかったのだ。確かに、彼には恋愛に疎いような節がある。しかし驚きはしても――

あれ、これって、驚いてるだけ?

拒絶というには弱い。ルーシィは浮かびかかった涙を指で拭って、彼の様子をおそるおそる盗み見た。
ばちりと、視線が合った。ナツが揺れる。

「……ぷっ」
「なっ、なんだよ!?」
「だ、だって。……真っ赤」
「んなっ!」

笑えてしまうほどに、赤い。こんなに赤いナツを見るのは初めてだった。戸惑いと焦りを全身全霊で表現していて、可愛い。可愛くて――

好きが、止まらなくなる。

「好き。あたし、ナツが好き」

ちゃんと相手に向けた告白は、声も震えずにはっきりと言えた。今までのはきっと練習だったのだと、ルーシィは小さく笑った。






ルーシィ視点はここまで。次ページからはナツ視点。


次へ 戻る
main
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -