頭の後ろで手を組んでから、ナツはソファに凭れ掛かった。天井を見上げてすぐに、飛び起きる。
「罰ゲームでもすっか。次間違ったら何か一つ言うこと聞けよ、ルーシィ」
「ふうん?今の流れであたしに勝てるとでも?」
「あっ、調子乗ってんな」
「だって三連勝じゃない。もちろん、あたしが正解したらナツが言うこと聞いてくれるのよね?何お願いしようかなー」
「へっ」
ナツは「見てろよ、絶対オレが勝つからな」と宣言して目を閉じた。唸る。
「んんん……何にすっかな」
「まだ?」
「焦んなよ」
左上を睨んだかと思うと、ナツはよし、と頷いた。
「決めた。――コップから取り出せるけど、入れることは出来ないものは?」
「ええ?」
ローテーブルのカップに目を落とす。瞬時に思い付かず、ルーシィはぱし、と両手を合わせた。
「ヒントちょうだい!」
「しょうがねえなあ。コップじゃなくても良い。皿でもポットでも」
「ええええ?取り出せて、入れられない……?」
「そう……へ?」
ナツがぱちくりと瞬きした。
「オレ、そう言ったか?」
「え?うん、コップから取り出せるけど、入れることが出来ないって」
「……」
つぅ、とナツの額から冷や汗が流れる。悟って、ルーシィは声を低くした。
「間違ったのね?」
「いあ、えと。うん、間違っ……あ、そか。間違った!間違ったぞ!」
「なに開き直ってんの。本当は何?」
「逆だ。コップに入れられるけど、取り出せないもの。ヒビ」
「ちょ、なんで答え言っちゃうの!」
気勢をそがれて、かくりと前につんのめる。ナツはルーシィに構わずふんぞり返った。
「だって勝負付いただろ。間違ったから言うこと聞けよ、ルーシィ」
「は?」
「オレ、『ルーシィが間違ったら』なんて言ってねえだろ?」
「なっ、何よ、それ!?」
今さっき思い付いたとしか思えない――実際そうだろう――乱暴な屁理屈に、ルーシィは拳を振った。
「そんなのなしよ!却下!」
「却下をカッキャする!」
「噛んでんじゃないわよ!」
「好きで噛んだんじゃねえよ!」
「何喧嘩してんのさ」
ハッピーの呆れ声に水を浴びせられて、ルーシィは呻いた。猫はお茶を冷ますことをいったん諦めたらしい。カップをテーブルに置いて、ルーシィとナツを見比べる。
「ルーシィはナツに何させるつもりだったの?」
「え?うーん、竈か……やっぱりお風呂かなあ」
「風呂?なんだ、鞭で打たれるかと思った」
「そんなことしないわよ!?」
あからさまに胸を撫で下ろしたナツは、ルーシィに向かってにっと笑った。思い出したかのようにカップを持ち上げる。
「ほら、これ飲めよ。リラックスすんだろ?」
「……」
そういえばまだ一口も飲んでいない。促されてこくりと喉に通すと、芳しいジャスミンの香りが口内に広がった。
ほっとする。このリラックス効果は、確かに――
「よし、風呂だな。任せとけ!」
「うん、ありがとう」
「完璧に背中流してやるよ!」
「なんで一緒に入ることになってんの!?沸かすだけに決まってんでしょ!?」
「じゃあオイラ、前流してあげる」
「セクハラどころじゃない!」
尻は背中に入るかどうかを議論し始めた彼らに、ジャスミンティーの効果が切れる。
ルーシィは鞭を手に取った。