「美味ぇ」
「そう……」

なんだか損をした気分で肩を落とす。ナツはルーシィの手からもう一口食べて、にっと笑った。

「へへ。ルーシィもな」

先ほどルーシィの口に押し付けた焼きいもの断面に、ナツが息を吹きかける。

「ふーふー……ほら」
「……」

はたりと、しゃぼん玉が割れるように気が付いた。ナツが食べているのは自分の食べかけで、今目の前に差し出されているのはナツの食べかけだ。しかもナツには自分が食べさせていて、今から逆に彼に食べさせられようとしている。

「ルーシィ?」
「あ、あたしはもう良いわ」
「んだよ、お前が食わないならこんなの作らねえっての」
「え」

意外な言葉が、ルーシィの脳に刺さった。導き出される疑問を、おそるおそる口にする。

「あたしのために作ったの……?」
「おう」

ナツはルーシィの目を見て肯定した。どこにも逃げ場のない、シンプルなそれがきゅっと胸を締め付ける。

な、何それ?

耳が熱くなる。上がってきた熱と反対に顔を下げると、ナツは芋をこちらに向けたままだった。

「……」

躊躇いは一度だけ。

ルーシィは目を閉じた。覚悟を決めて、口を開ける。

ナツの石焼きいも。ナツが作ってくれた。あたしのために――。

熱過ぎない芋の甘さが、ぶわっと口内に広がる。

「美味しい」
「もっといっぱい食えよ」

いつの間にか、距離が近い。こんなにも近いものだっただろうか。いや、そうだったかもしれない。いつもナツは自分のすぐ傍に居てくれる。
頭がふわふわして思考が覚束ない。ぼんやりとしてきたルーシィを、ナツは期待したような目で見つめてきた。

「ルーシィ」
「何……?」

ナツの目に自分が映っている。それだけで、こんなにも嬉しく感じるのはなぜだろう――。

「出そうか?」
「……え、何が?」
「屁」
「…………はい?」

聞き間違いでは、なかった。

「人間は屁で飛べるかもしんねえってよ、ハッピーが。これは挑戦したくなるだろ、ルーシィは」
「……」
「どうだ?飛べそうか?ルーシィ重いから無理か?」

ことりと傾げた首は可愛かったが、今度は許せなかった。

「自分で試せ!」
「むが!?」

叩き込んだ焼きいもは、限界までナツの口を押し広げた。






王道オチ。あれ、王道?王道ってなんだっけ?
お付き合いありがとうございます!



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