石焼いも





ルーシィがギルドの門をくぐると、入り口に何か大きな物が置いてあるのが目に入った。その傍らでは、マックスがメガホン片手に声を張り上げている。

「焼きいもーぉー、焼きいも!焼き栗もあるよ!」
「何やってるの?」
「お、ルーシィ!」

彼はひょい、と台から下りて――その時初めて、台に乗っていると気付いた――ルーシィに片手を上げた。彼の身の丈ほどもある、隣の壷のようなものを親指で示す。

「見ての通り、今シーズンの新しい商売だ!」
「壷を売り付けるなんて悪徳宗教みたいよ」
「違ぇよ!」
「あはは、焼きいもと焼き栗ね、わかってる」
「ったく、ルーシィ、ナツに似てきたよなあ」

微笑みを混ぜた呆れ顔に、マックスの年輪を感じる。嬉しくない発言だが暴言と受け取れず、ルーシィは素直に流した。

「この壷に入ってるのね?」

壷からは盛大に湯気が出ているが、背伸びをしても中までは見えない。マックスが貸してくれた台に乗って、ようやく中身が目に入った。

「石ばっかりじゃない」

ごろごろとした石が入っている。壷の片隅にはまた小さい壷が入っていて、そっちは恐らく焼き栗だろうと思われた。
台を下りたルーシィと入れ違いに、またマックスが上った。火かき棒のようなもので壷をごすごすと掻き混ぜる。

「石の、下にっ、よっと……ほら、あった」

棒の先で刺した焼きいもを、新聞紙で包んでくれた。笑顔で差し出してくる。

「ほら」
「え、もらって良いの?」
「いくら、とは訊かないとこがらしいよな。良いんだ、ルーシィにはあげる約束だから」
「約束?」

聞き返すと、マックスはギルドを指差した。

「ナツだよ。この石、ナツが熱したんだ。焼きいもが出来上がったらルーシィに食わせろ、ってよ」
「ナツが?なんで?」
「自慢したかったんだろ、きっと」

『その焼きいも、オレが作ったんだぞ!』とふんぞり返るナツが想像できて、ルーシィは苦笑した。作ったのはマックスであってナツではないような気もする。
手のひらが熱くなってきて、焼きいもを左手に移す。これをただの焼きいもではなく石焼いもたらしめんとしたのは確かにナツなのだから、『ナツが作った』と言っても間違いではないのかもしれない。

「火竜の炎で作った石焼きいも、ね」
「それ良いな!付加価値があると売り上げ伸びる!」
「あ、値上げもできるんじゃないかしら!?」
「……いや、そこまで商売っけは出してないから」
「引かないでよ……」

思ったままを言ったのだが、マックスの反応で心に風が吹いた。礼を言って、ギルドに入る。
背中ではマックスが早速「火竜の炎で作った石焼きいもだよー!」と謳っていた。くすりと笑うルーシィに、ナツがどたどたと駆け寄ってくる。

「ルーシィ!焼きいも食ったか?美味いか?」
「まだ食べてないわよ」

一番近いテーブルについて、新聞紙を広げる。ぎゅっと握れないほど熱いいもをなんとか半分に割って、ルーシィはその香りに目を細めた。

「うわあ、美味しそう!」

金色の断面は視覚にも美味しい。ナツが目を輝かせて身を乗り出してきた。






火竜ブランド。


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