大切にするよ





たった数日。

ナツがギルドを離れていたのは、たった数日だった。
季節が変わることもない、ほんの短い時間のはずだった。
それがどうして、こうなっているのだろう。

「ナツ?」

ギルドの入り口に突っ立ったまま中に入ろうとしない彼に、足元のハッピーが不思議そうな声を出す。それになんとか答えようと口を動かしてみたが、喉から呻きが漏れただけだった。

「ぐぅ」
「お腹空いた?」

平和な相棒は腹の音だと思ったらしい。その勘違いに返答の意味を見失って、ナツは無視を決め込んだ。猫の存在が遠くなる。

今は彼女が――ルーシィの背中だけが、ナツにとって全てだった。

帰ってきたのに、彼女からの『お帰り』はない。それどころか、振り返ってくれさえしない。他の連中は口々に帰宅を喜んでくれているのに、こちらに気付いてすらいないようだった。
それほどに、彼女が目の前の男に集中しているということがナツには信じられなくて、信じたくなかった。
近寄りたいのに、足の裏が床にへばりつく。ルーシィと男はカウンターの前で向かい合っていた。見たことのない男。笑顔を蕩けさせたような表情で、ルーシィを見つめている。
たとえ背中だけでも、自分がルーシィを見間違うわけはない。自信がある。だからナツはルーシィじゃないかも、とは思えなかった。二人が――はっきりとはわからないが――手を取り合っているように見えていても。

そして、耳に、届く。

「一生、大切にします」
「はい……!」

感極まったような、ルーシィの声。ただ胸を抉るだけの、その音。
身体をぴくりとも動かさず、ナツはもがいた。自分の周りが石で出来ているかのようだった。

「良かったわね、ルーシィ」
「はい!」

ミラジェーンの祝福が、ナツの手を払う。思い切り殴られた時のように喉から空気の塊が出た。消化途中の物まで吐き出しそうになって堪える。

気持ち悪ぃ。

胃液の味がする。乗り物酔いで頻繁に経験するが慣れることはない。苦しさに涙が滲んだ。

なんで、こんなことに。

今回の仕事、そういえば何時帰る予定とは言っておかなかった。まさか信じてくれていなかったのか。ナツが必ず戻ってくると。

「ナツ?具合悪いの?顔色酷いよ」
「ぅ……」
「横になる?帰る?」
「帰……」

どこに。

真っ先に頭を過ぎった場所は、ルーシィのベッドだった。そこへは帰れない。
彼女の部屋へ行くことが出来ないのであれば、ナツにとって居場所が失われると同義だった。暗闇の中、立っている床だけがある。そこからどこへも行けない。

「いやだ」

届くことを信じて、ナツは今度こそ手を伸ばした。身体は動く。足も踏み出す。
今更のタイミングで、ふわりと金髪が靡いた。空気に溶けるような毛先が流れて、淡褐色の瞳が現れる。
周りは酷く緩慢に動いているように見えた。

「ちょっと会ってねえだけで……」

ルーシィの肩に触れる。自分が走っていたことに気付いたのは、勢いを殺せなかったからだった。彼女ごと転がるように引き倒して、叫ぶ。

「オレのこと忘れてんじゃねえよ!」






いつでも待っててくれる、そう決まってるはずなのに。


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