今夜は星がキレーだ。
星は冬の方がキレーだって言うけど、夏の夜空だって悪くねえ。オレには見えてる星の違いなんてわかんねえしな。あ、あの細かい星の川は夏だけなんだったか。いあ、冬にも見えるよな。確か。
見える範囲の星を、目だけ動かして見る。見えるのは星だけ。雲ひとつない空だけ。あとは何にもねえ。
鳥ってすげえな、こんだけ星あんのに空飛んでもぶつかんねーもんな。あ、そっか。それで夜には鳥って飛ばないのか。
これ大発見じゃね?でも誰かに言いたいのに言えない。理由なんか簡単だ、オレの他に誰もいねえんだから。

ルーシィと、喧嘩した。

軽い口喧嘩がなんでか後に引けなくなって、オレらは別々に仕事に出た。列車乗りたくないから歩いて帰ってきたオレは、今夜はここで野宿する。
今頃ルーシィとハッピーはどこで何やってんだろ。もうギルドに帰ってるかな。そうだよな、向こうも泊まりの仕事じゃねえもんな。つかハッピーの奴、なんでルーシィに付いてくんだよ。オレと代われよ。
あー、背中痛くなってきた。やっぱ岩じゃなくて砂利の上に寝た方が良かったのか。でもオレ、どこでも寝れるはずだよな。今までずっと、平気で野宿できてたよな。
なのになんで眠れねえんだ。寝るのってどうやんだっけ?上向いてんのがダメなのか?
うつ伏せになってみる。なんか惨めだ。星も見えないし、鼻痛ぇ。

一人きりって、こんなに辛かったか?

ルーシィに会いたい。話したい。なんで喧嘩したのか忘れちまったけど、オレが悪かったから。悪かった、で良いから。
寝返り打ってみたら星が滲んだ。オレは起き上がって荷物をまとめ直した。やっぱ、寝ないで歩こう。一刻も早くギルドに帰ろう。ずっと黙ったまんまじゃ、おかしくなっちまう。かといって独り言とか言いたくねえし。そんなの、痛いだけだ。今は特に。
オレは歩きながら、服の上からポケットを押さえた。中にはルーシィの部屋の鍵が入ってる。こっそり、ってか別にこそこそしてるつもりはないけど、作っておいた合鍵。
たぶん朝までにはマグノリアに着く。ルーシィの部屋に行って、布団に潜って寝よう。もしかしてハッピーが一緒に寝てんのか。オレと代われよ、マジで。
マグノリアの方向も、星がキレーで腹が立つ。ずっとこれ見ながら歩かなきゃなんねえのか。どんなにキレーだって、オレは今一人なんだよ。ルーシィに繋がるのは鍵しかねえんだよ。

鍵?そうか、鍵、な。
星に鍵って言ったら。

「開け、ルーシィの扉」

うげ、独り言ってやっぱ痛いな。しかも寒い。何言ってんだ、オレ。くそ恥ずかしい。
でも、久しぶりに声出した気がして、ちょっとすっきりした。気を取り直して、顔を上げて。

オレは、夜空を飛ぶ鳥に気が付いた。

ずいぶん速いくせに、星にぶつかんねえ。そうだよな。ぶつかるようなヘマする奴じゃねえよな。
笑えてくる。そのせいで息が上がる。オレの身体は、脊髄反射みたいに走り出してた。鳥じゃないこと、わかる前から。
言ってみるもんだな。扉、マジで開いたんだ。黒い影が段々大きくなってく。空を大きく飲み込んでく。
今夜は星がキレーだ。

ホント、キレーだ。







2014.7.2、memoにてナツの日記念。


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