あなたは私の好きな色
髪型良し、服装良し、ネイルもばっちりキめていざ出発!
ルーシィは鏡の前でにっこりと笑顔を作ると、スキップもそこそこに家を出る。ヒールの音が石畳の道に心地よく響いた。
今日のコーディネートはピンク色。ピンクはルーシィの好きな色だ。いつも仕事で持ち歩いているトランクだってピンク色。
そう、ルーシィはピンク色が好きだった。
「ルーシィちゃんおはよう!」
「おはようございまーす!」
気さくに話し掛けてくれる船乗りさんに、元気よく挨拶を返す。何だか今日はすこぶる機嫌が良い。
お気に入りの服だからかなと、軽い足取りでギルドへ向かった。
「おっすルーシィ!」
ギルドに着くと、先に来ていたナツがルーシィに声を掛ける。その彼の足下に居た相棒の青い猫も、ルーシィを見つけるやおはようと挨拶を交わした。
ルーシィは笑顔でそれに応えると、朝なのにすっかり騒がしくなっているギルドを見渡す。「ああ清々しい位騒がしいわね」と、どこか諦めたように小さく呟いた。
だがいつも通り騒々しいギルドの様子が、ルーシィは大好きだった。実家とは違い、優しくて温かい。
ギルドに居るだけで、ルーシィは自然と笑顔になれた。
「今日はこれにすっぞ!」
意気揚々と、ナツが既に選んでいたのであろう依頼書をルーシィの目の前に突き出す。中々良い額の報酬に、ルーシィの胸が高鳴った。
やる気を見せるルーシィに気を良くしたのか、ナツが彼女の手を引いて走り出す。「そうと決まれば早速行くぞ!」と、幼子さながらにはしゃぐナツを見て、ルーシィは思わず吹き出した。
(ーーそういえば)
手を引き走るナツと横で飛んでいるハッピーを見て、ルーシィは数ヶ月前を思い出す。ーーあれはそう、ハルジオンの港だったかしら。
ナツとハッピーに出会い、助けられ、そうして憧れの妖精の尻尾にやって来た。あの時もこうしてナツが手を引いてくれたっけ。
触れ合った手から、火竜特有の温かい体温が伝わる。別の男子相手ならちょっと恥ずかしい行為だが、何故かナツならアリな気がして、妙な心地よさをルーシィは感じた。
ふと視線を、繋がった手首から上へ上げて見る。するとルーシィの視界には春を彷彿とさせる鮮やかな桜色が。何とはなしにルーシィは、空いている手でその桜色に触れる。
「どうした? ルーシィ」
違和感に気付いたナツが足を止めてルーシィを振り返る。
それと同時に掴まれていた手と手が離れ、ルーシィはほんの少しだけ寂しく感じた。
「ねぇナツ、あたしピンクが好きなんだぁ」
「あ? それがどうしーー」「アンタの髪も、綺麗なピンク色よね」
そう言ってルーシィはナツの手を引き走りだす。意味を理解しているのかいないのか、ナツは「ピンクじゃなくて桜色だ」と言い返した。
ルーシィは気が付いていないが、ナツの顔はほんのり赤い。髪の色も手伝って、ナツの顔全体はピンクに染まっている。
「でぇきてぇる」と、巻き舌風にハッピーが茶化した。