ここから侵入してはいけない(斎沖+土方) 「ここは一君と私だけの部屋です。鬼の副長といえど、この敷居から奥には通しません。どうしても入るというならば、私に勝ってから入って下さいね」 「あーハイハイ、お遊びも大概にしろな。俺ァ斎藤に用があんだ、てめーに構ってる暇はねぇ。おい斎藤、部屋から顔出してくんねぇか?」 「副長、沖田さんと戦って下さい」 「お前ら…俺に恨みでもあんの?」 嘘をついてはいけない(沖田) 「沖田はん可愛えから、血ィ見んの怖いんやない?」 「ええ、その通りです、私は血が苦手なもので…驚いて倒れるばかりですよ。人を斬る前に、刀なんか怖くて握れたものじゃありません」 「おかしいわぁ、そないなお方はんが新撰組におるなんて。ほんま可愛いしか言えへん」 「ほんとですよねぇ、ふふふ」 先に眠ってはいけない(斎藤+永倉) 「永倉さん、寝てはいけない。先に寝られるということが、俺は殺したいほど嫌いなんだ」 「うるせぇえ!夜勤明けなんだよ!てめぇの好みの話を挟んでくんな!」 触れてはいけない(斎藤+平助) 「今日から僕に触っちゃダメだからね!」 「相分かった」 「絶対触っちゃダメ、だよ…?」 「ああ、触れないから大丈夫だ。いつもお前に触れてないだろう」 「…ねえ、もうちょっとさぁ、残念そうにしてよね」 「何故」 「お触り禁止週間とか言いたいんだもん!」 「…馬鹿か?」 If I were him(吉栄) 私は私を逃がさない。ちゃんと殺してあげる、心中未遂にしてあげる。 (空っぽになるんに、どうしてそないなことしはるんやろ、殺ったらよろし) 神様の意地悪(沖田) それは命を取られることです。だから人に意地悪をしてはいけないのです、人の嫌がることをしては駄目なのです。お分かりになりましたでしょうか? だけど僕は人にたくさん意地悪をしてきました。殺しちまいました。 罰は返ってくるのです。 痛いほどの純粋性(斎藤+土方) 「報告を頼む」 「…はい。斬りかかってきた浪士を交わし、心臓を切先で貫いて鋩子で肉片を裂き、小鎬を擦って三ツ頭に血を吸わせ、鎬に血を滴らせながら鎬地にも滑らせて峰を鮮血で紅く刃先を鋭く、そして平地を漆黒に刃文を魅せるよう、そして滴る紅い雫は棟区から鑢目に続けて滴り、茎尻まで沁みて地に落とすよう、一人斬りました」 「斎藤、お前が刀好きだという事は良〜く分かった。けどそれしか分からねぇ」 「左手一本突きで仕留めました」 「報告ごくろう」 春、庭先、まだ冷たい風と抜けるような青空、君の血(斎藤+以蔵) 「おまんの人の殺し方は気に食わん」 「…ただの殺しに、お気に入りも気に食わないも何も無い」 生暖かい風が吹き抜けていったようだが、血溜まりは濃く揺れもしない。 しかし刀の血だけはスラスラと伝うのだ。 「傷一つの屍は屍に見えんき、嫌じゃ…」 同志と思われる男の髪の毛を粗雑に掴み、以蔵はソレをズルズルと引きずって霧の中に消えてしまった。 血の道も途中で消えており、斎藤は白い息を吐きながら溜め息をつく。 (懐紙を忘れてしまった) 影とドッペルゲンガーと僕(阿部+平助) 「近藤や土方を裏切り、伊東先生と共に来たというのに…さっきの発言は何だ、藤堂君」 「それは…」 言葉に詰まったのは久しぶりだった。真っ直ぐに言えやしない言葉は、時にだらしなく曲がる。 「迷いは持つなと言ったばかりであろう?」 「ですが下手人を、下手人を原田さんに仕立てあげるなんて…あんまりです…」 「君は下駄を放っただけの働き。偉そうな事を言える立場ではない」 「あんなことのために…僕に下駄を取りに行かせたんですか…?詳細も教えてくれずに…」 あの日、手に取ってしまった下駄は冷たくて堪らなかった気がする。 放って手から離れて行く瞬間さえ、凍りついた霧氷のようであった。 (カランと鳴ったのかすら覚えていないんだもん) 「詳細を教えたら君は、感情に飲み込まれて何も働かない。いっそ新撰組に戻ってはいかがか。…斎藤君もそう思うだろう?」 「御意に御座います。」 はじめは僕と目も合わせようとせず、左に置いた刀の柄ばかりを見ていた。 (僕の居場所は、何だかどこにいっても無いみたい) 青が足りない、息も足りない そう思うた時に人は必ず死ぬ。 ← ×
|