枯れ落ち葉は水底へ<上>


胸が傷む程の冷たい朝に、足先を悴ませながら腕を伸ばす。深い眠りに吸い込まれていきそうな瞳は、綺麗に煌々としていた。

「おはよう」

それに対しゆっくり頷き微笑むと、すぐに瞼は閉じていく。どうしようもない気だるさが、身体を支配している事に違いはなかった。


「一君、眠たいの?」
「……ん、」
「昨日の夜、何処へ行ってたの?」
「……少しだけ、お話をしに…服部さんのところへ」
「朝方まで?」
「もう朝方、だった…?」


途切れる言葉の最期に、色を含んでいる。
潤む瞳の中に何を見ているのか、頬に触れなくとも沖田は勘づく事ができていた。

「一君は、服部さんとお話なんかしてない…。違う気がする。どうして嘘なんかつくの」

上体を起こすと、澄んだ空気が身体を撫でる。
そこから斎藤を見下ろしても、彼は沖田を見上げることはなく唯、閉眼している。閉じた真っ暗な世界に、何を思い浮かべているのだろうか、それさえを考えるだけでどうしようもなく胸が押し潰されそうだ。

「一君の匂いがしない」

眉を寄せる自身の顔が見える。恍惚そうな斎藤の顔が此方を見て、微笑んでいる。



開け放たれた牢に眠り続けながらも、斎藤は青白い手で自分の左手首をぎゅっと握った。

「…"執着"、してる。」

自分に小さく言い聞かせ、くすりと笑って目を閉じる。
その意味が何であるのか、何を想っているのか、透かすようによく見えた。

それから何度も名を呼ぼうと青年は覚醒せず、沖田は子供のように膝を抱えて考える。
(一君、しあわせそう…)
巡っても答えの出ない何かに、ため息を吐く余裕もない。


(執着って、なに)


涙が流れていた。



end

枯れ落ち葉は水底へ<下>











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