黒猫が金色の目を此方へ向ける。大きな鈴を付けて、綺麗な鈴の音を鳴かせて歩いていった。雨が降り始めた頃、涼しい朝に見たっきり、飼い主でもあった男が殺された真夜中には部屋の何処にも庭の何処にもいなかった。金色の目は何処へ行ったのか。黒猫が付けていた大きな鈴をぶら下げた紐は、白色だったと今でも覚えている。気味が悪い程に美しい毛並でもあった。


「久方ぶりにあった女に、失礼な事聞きはるんやね」

首を傾げる。

「いや、お前が引き取ったのかと。あの人と、あの黒猫を大事にしてただろう」
「白猫どすえ?」
「白…?」
「いえいえ、黒猫どす」
「おい、どっちだ」
「あんさんが殺してもうたんやろ、あんさんが覚えとるんやないの、一番」

咲く花の散る間際は輝いている。人とは違う。

「殺してなんかない」
「遊びほうけてんとちゃう、殺しほうけて分からんようになったんよ」
「待て、俺の話は終わってない」
「うち全部知っとるんよ、ぜぇんぶ。」
「何をだ、」
「あんさんが一番知っとるやろ、なァ?お前の大切な人、もーらい」
「だから俺は、猫は殺していない」
「後ろ振り向いたらあかんえ?ウシロフリムイタラアカンエ?」

足元に転がったぐしゃぐしゃの千代紙は、破れかけていた。
後ろを振り向けど、誰もいない。




懐かしい鈴音が鳴る。刻々と心音を打つ。

「土方さん、何処へ行かれていたのですか」
「それより…斎藤、それは、」
「ああ、これは吉栄さんから頂いたものです。お守り代わりにと」
「お前…この鈴の紐は白だったんだぞ?」
「いいえ、赤でしたけど…」

囃し立てられ落花した花は惜しまれずもせず愛でられもせず疎まれる。
踏まれた花弁の方が整っていたが、それでも綺麗であった。


end











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