カタン、と障子が僅かに開いた。その真白な市松模様に移る影は、重なるように愛おしく二つとなる。

「謹慎お疲れ様でした、これは祝いのお酒です」
「あんなにいっぱい飲んだ癖に、まだ足りねぇのかって怒られそうだな」

猪口を差し出した斎藤の指先に触れながら、永倉は呆れた様に笑った。布団の上に置かれた青磁の酒瓶が、不安定に斎藤の膝へ寄りかかっている。

「六日間ずっと一人は寂しいわ」
「今回はたったの六日間です、二カ月間ではあるまいし」
「うるっせぇよ、」
「せっかく持ってきたお酒、布団にこぼす気ですか」
「んー、お前の足に掛かった酒は綺麗に舐めてやっから」

強引に腰を引かれると、布団は更に皺を作った。永倉の脚と重なる。ひやりとする。

「足先冷てぇ」
「永倉さんに抱かれれば温かくなるから別に構わない」

畳に放り投げられた黒い盆の上には脱いだ白い足袋が重なっている。酒瓶は既に転がり、布団の上に染みを作っていた。



「はじめ、泣いてる?」


問うと、首に回された腕に力が入る。呼応する様に永倉は斎藤の背中を抱いた。表情などは見えていない。

「永倉さんはいっつもそう…。」
「…おう、」
「俺の事なんか構わなくていいのに、何で、いつもそうするの」
「何でだろうなぁ…。」
「どうしていつも一緒に在ってくれるの、どうして、」

酒瓶は暗い部屋の隅へと転がっていった。

「お前さ、俺から離れんなよ、なあ?」
「もう、離れて行っちゃうよ…戻って来ないよ」
「ん、知ってる。」
「永倉さん、……ごめんね、有難う。」



言った唇の輪郭を辿る。

「あん時、もうどっか遠くに行っちまえばよかったかな、お前と二人で。」

弱々しい声で呟いた。返す事も出来ない返事を抱え、斎藤は泣き続けたまま顔を上げようとはしなかった。
足先は赤、指先は紫、そして黒、


end











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