みんなの刀は朱かった。 「僕、山南さんを殺そうとしてた奴がいるっていうの聞いて、どうしても許せなかったから…」 「永倉さんを殺そうと企てていたと聞いた。あの人は俺の大切な人だ、だから殺される前に殺してやっただけだ」 「取り逃がしてすまないね、姿を見失ってしまったよ」 「間者が俺の暗殺を?どうしてわざわざそんなことを。よく分からねェな。しかし芹沢さんを殺った奴が同じ飯食ってた奴なんてよ、信じ難ェわ」 「芹沢派は徹底的に潰すってわけか。長州の間者と決めつけてしまえばそれまで、死体は真実を喋らない。汚い手ばかり使いやがって」 「ああ、あの間者どもの始末か。墓は無くて良い、埋めておけ」 「よんどころなく殺害致し申し候」 「はは、斬った後は気持ちいいなァ」 点々と赤い血だまりが続き、深い真紅を魅せている。それなのに、死体は血だらけ泥まみれ。 「原田さん、槍しか使えないなんて言うけど刀も綺麗に使えてるじゃないですか」 「そうか?」 足元に斃れている血だらけ泥まみれの死体を指差した。 「原田さん、それ、どうして殺しました」 なぜおかしいことを聞く、そのような顔をしました。でもその答えがおかしいように、問いかけることは当たり前でもないような理由がありますので。 「総司、お前が刀の試し斬りどうですかって言ったからだろ、」 「ふふふ、ですよね」 濃い霧に覆われすぎて、その血だらけ泥まみれの死体は何であるのか分かっていない筈です。 「私、嘘をつきました」 「人間嘘もつかねェとやってらんねぇよ」 「私は酷い人間です。皆に嘘をついて、それでいて自分自身の所為にしないんですから。」 「俺さ、そんな総司と一緒にいるんだから、総司だけが嘘ついて酷い事してるんじゃないよ、それは俺も一緒だよ」 武士とかそんな大それた身分じゃなかったから刀なんて持ったこともねぇし、刀の手入れなんて知らねぇ、そう言って彼はにっこりと笑い、私に血と脂が混ざった刀を差し出しました。 だんだんと濃い霧が晴れてゆきます。なので、彼も足元の血だらけ泥まみれの死体が人間であったことは、彼は当然知っていたと思います。 end ← ×
|