「百鬼夜行、全然見えませんね、眠たくなってきました」

今にも崩れ落ちそうな空家の二階から、町の通りを見下ろせど嗚呼見つからぬ。

「いなりずしいっぱい食うからでしょ」
「佐々木さん何でも作れるんですね、おいしかったです」
「一くんの欲張り屋さん」
「あ!…佐々木さんどうして前で帯結ぶんですか…、」

前へだらりと垂れた帯の端を持って、不服そうに佐々木を見上げた。しかし彼は満足そうに、お気に入りの遊女でも見つけたように嗤っている。

「えー…だって、後ろに帯結んでるとさ、こうやって後ろから抱っこできない」
「耳、舐めないで下さい」
「甘噛みしただけだって。一くん、」

返事はなく、寝息がスゥスゥと聞こえた。よくもまぁ、こんな薄気味悪いボロ屋の一角で、寒空の下よく寝れるもんだと佐々木は関心した。このボロ屋で女が強姦されて殺されているというのに、と佐々木は何気なくそんな事を思って、すぐにどうでも良いとすぐ忘れた。

「あ、百鬼夜行。」

嘘八百にも中々目を覚ますことなく、佐々木の腕の中で気持ち良く寝ている。


「はじめくーん、ほらほら、君が見たがっていた百鬼夜行ですよー、起きなきゃ見れませんよぉ………あらら、一くん…いなりずし本当に食べ過ぎた?お腹出てるよ、きみ」

柔らかい腹部を撫でながら耳朶を噛む。


「こうやって孕んでくれればいいのに、お前が。…──俺さァ、犯しちゃったら殺したくなるんだよね。でもお前は違うなァ、殺せないし大事にしたい、けれど酷く犯してしまいたくなる。だからそこらへんの女をお前の代用品だと思ってるけど、やっぱり殺しちゃうんだよなぁ…お前がいいんだろうな、俺は。ああ自分自身がすげぇ気持ち悪ィ…。」


ガタリガタリと、軋みながらも古びた木戸を閉めた。部屋の中は何一つ見えないまま、真っ暗だ。

「前に帯結んであげたけど、やっぱり前で結んでも邪魔だね。もう取ってしまおうか、帯を」

百鬼夜行なんて嘘だよ、ごめんね。


end











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