蝉が鳴いている。
来し方といはれ、行く末が無いとは云えぬさま、灰をひき散らす。


「日暮も近いから、蜩かなぁ?」

佐々木は斎藤の髪を優しく撫でた。まるで、格子の奥に広がる景色など、どうでも良いと云うような言葉を吐き捨てている。

「…蜩?夕、刻?」

つい先ほどまで、朝方に鳴いていた筈だと斎藤は記憶している。記憶の端に、只其れだけを。

「もののあはれだよね」
「無常で哀愁…?」
「うん、一君がね。」

返事はなく、身体も動く事はなかった。その通りだと思った、或いは感じているのだろうか?と佐々木は考える。
きつく縛ってしまった斎藤の両手は、薄紫色に染まっていた。此れは夕暮のせいでも何でもない。紐は白であったが、斎藤の手首に喰い込んだ白紐は、綺麗な赤色になっていた。

触れているのに分からない。触れているだけでは、分からない。


「喉、かわいた…。お水、下さい…。」
「えぇ?さっき唾液いっぱいあげたでしょう?足りなかったの?」
「帰らなきゃ…離して…。」
「帰りたいんじゃなくて、帰りたくないんでしょ。離してだなんて、ふざけた事言っちゃって、一君が離さないんじゃない。俺の、こぉんなに根本まで飲みこんでさァ」


紅い布団に横たわる斎藤の顔を覗き込む。涙は流れているようであった、長い睫毛が濡れている。


「図星だったのかな、顔真っ赤。かぁわいい」
「んっ…」
「聞こえる?」
「何、が…っ」
「俺のマラが一君の中に何度も入ったり出たりする音が、」

横向きに寝たまま、両腕で顔を必死に隠す斎藤を眺めながら、佐々木は上体を少しだけ起こし、無心に腰を打ち付けた。吸いかけの煙管は枕元に。煙は無い。
酷くすればするほど、斎藤の身体は悲鳴を上げている様であった。このような行為をするのは、何回目でありましょうか。

「やっ、…だ、聞こえない…っ、何も…っ」
「蝉時雨だよ、夕立かなぁ?外、大雨。俺、傘持ってないよ」
「 ぐちゅ ぐちゅ 言ってる……ここ、」
「…へぇ、そう。嫌な雨だねぇ」

爪があたっている。虚ろな表情をして、助けを求めている。先を、求めている?
生唾を飲み込み、佐々木は斎藤の首筋に噛み付きながら両腕の赤紐を解く。自由を与えたとしても、何処にも行かないと確信している。
着物を脱がしながら、斎藤の腹部を撫でた。


「一君、横腹の古傷、どうしたの?」
「これは、佐々木さん、が…」





果て、終焉に恋う。


end











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