別に何でもない。
結構難でもない。

「ああ、どうして」

じわりと熱くなり、涙というモノが、伝いはしないが落ちる感覚で五秒ずつ。
片方が落ちれば右が、何故か左腕へ。
右手で眼を拭うと左目が染みてしまったのだ。

おかげで目の前の幸せそうな男は哀しそうな顔をひっきりなしに、する。


「その顔は嫌いだ。できれば人間とはもう構いたくない。何処かへ行って、」


そう言っても動かない。案外そういう類の反応は苛々とくるものがある。まるで、味わったことのないような情け。
そう、死にたくはない。

「ねぇ、なにしてるの。君とは関わりたくないって言ったじゃないか」

君という存在が憎らしすぎて。
やはり君は赦せない、左目は戻らない。染みて染みてどうにもならない、微かに震えている。
本当は死んで欲しいと思っていた、心に。


左目が開き僅かに感覚を記憶して行けれども、姿だけは妙な水面に映って揺らぐ測り。

「もう"一"と呼んでくれないんですね、沖田さん」

ああ可笑しい。




「呼ぶわけないじゃないか、"一君"なんか大嫌いだ」




君は生きればよい。
辛いと泣き喚くまでの長く果てしない距離を。


end











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