晴れていると言えば晴れていて、その割には薄暗く、その割には雲一つない穏やかな日だった。

「花占いしてたんだよ」

沖田に何をしているのか問われた平助が、何気なく返した一言である。
地面には平助が獣の死体から毛を毟り取ったかのような数々の花びらが散っている。もしくは、死んでいる。そして死にかけている。

「花占い何回してたの?」
「八十九回。」
「平助ぇ、それ可哀想だよ」
「花が?」

沖田は平助を見下ろしながらゆっくりと首を真横に振った。

「地面が可哀想だよ、花なんかじゃなくて、」

同情している顔を向ける。散らばった花を軽んじた扱いをする。沖田の下駄に数十枚の花弁が助けを求めて縋っていた。平助はその光景を蜘蛛の糸であると感じ、沖田を見上げる。蜘蛛の糸など、何処にも垂れてはいない。それは虚実であった。

「花が可哀想だよ、僕いっぱい千切っちゃったから。」
「ううん、地面が可哀想。だって平助が千切った花に埋もれて、この地面たちは青空を見上げられないんだよ?」
「青空…?」

沖田の指差す方向はくすんだ薄紫色であった。

「平助は何か絶対的な事でも思い浮かべていたの?花占いで」
「何回しても“嫌い”で終わるの、どうしたらいいかな」
「必ず嫌いで終わっちゃうの?」
「うん、“好き”で終わりたいの。」

平助は死ぬ間際の人間のように落胆し、膝を抱える。爪先は赤く、緑色に染まっていた。唇と、同じような色をしている。

「嫌いで終わっちゃったら、一が本当に僕の事嫌ってるみたいなんだもん」
「一君のこと占ってたの、」
「うん、そうだよ」
「平助、一君は平助のこと好きだから大丈夫だよ」
「一は沖田さんのことが好きなんだよ、僕なんかどうでもいいって顔してる。僕、沖田さんが羨ましいって思う時があるもの」
「私は平助が羨ましいと思うけどな、違うの?」

まさか、そういう顔をした。沖田は欠伸をすると平助の目の前にしゃがみ込み、猫の死体でも見るように興味あり気に花占いの結果を見つめる。雪より鮮やかで雪より冷たい。雪より、朱色。それらを血だまりのように掬い上げながら沖田はニッコリ笑った。

「お互い羨ましいって思ってるけど、お互い入れ替われないよ。都合が良すぎるもん。私は平助みたいに花占いなんて可哀想で出来ないなぁ、人間は殺しても無抵抗な花を殺すのは気が引けちゃう」
「さっき、沖田さん花なんか可哀想じゃないって言ったのに、」
「気が変わっちゃった。」

掬い上げた片手いっぱいの花びらを、沖田は平助の頭へ乗せた。地面の土ごと掬い上げてしまったのか、平助の大きな瞳に砂が入る。顔を歪ませ目を擦ると、視界が歪み頭重感に支配されていった。

「私、平助みたいに甘え上手じゃない。一君に甘えられないの、平助と違って。でもそれだけ。それだけしかないから、私は私でいいのかも。平助のこと羨ましいって言っちゃってごめんね、」
「僕は、人間殺すより花を殺してた方が随分楽…。最低じゃないから」
「うん、お互いそれでいいのかもね。そうやって平助はずっと甘えていれば大丈夫、一君も守ってくれる。信頼は、されてないと思うけど…。」
「……だから花占いでもして気分を紛らわせてろって、沖田さんはそう言ってるの?僕に。」

嘲笑とは違う。
真逆の性質に似たように、口角は上がっている。

「もう花占いしてるじゃない、平助自身が、自ら。」

影踏みのお遊びも出来ぬ夕暮れだと沖田は喋った。よく見えない。足元がぼんやり、小指が在るのかさえ分からぬ、終い、だと戸惑っている。
手を伸ばしてもそこには何も無い。


やはり、
「やはり“嫌い”で終わる。」

それだけのこと、それだけのお遊びであった。



end











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