「凍え死んじゃうよ、」


白い雪が舞っていた。
照らされた蝋燭の灯が眩しく、目を細める。

──その声を、斎藤は誰よりも知っていた。
固まってしまった動かぬ手足を愛しく擦り、憔悴しきってしまった斎藤の死人のように冷たい身体を軽々と抱え上げる。じんわりと伝わる温かさが、捨てた記憶を浸透していった。


「服部、さん……。」
「お湯で身体を拭こうか、斎藤君泥だらけだよ」

服部は縁側に腰を掛けるなり、斎藤を膝上に乗せ、片手で白足袋を器用に脱がせた。
泥水をたっぷりと含んだ足袋は、どちゃりと鈍色の音を立て廊下へと落ちる。路を創るように、泥はひたすら曲折を描く。

「横になって、」

部屋の座敷に斎藤を寝かせると、湯に浸した手拭いで綺麗に身体を拭き始める。口端と両手首の傷は一度舐めてから優しく拭き上げ、清潔な布を巻いて丁寧な手当を施した。

「指先の感覚は戻ってきた?」
「多少は…。力は、まだ入りません……」
「…そう、まだ楽にしてていいからね」

愛撫のように頭を撫でると、服部は斎藤の後孔へとゆっくり、長い指を差し込んだ。
最奥を突き、時間をかけるようにして引き抜くと、血の混ざった白濁の精液が流れ出てくる。

「斎藤君、辛かったね…」

強姦に近い行為でもあったせいか、無理に捻じ込まれた其処は赤く腫れあがっており、指をきつく締め付けてくる感覚はあまりない。それでも、背筋をビクビクと痙攣させ、服部の長い指を根本まで呑みこみながら中は小さく蠢いている。

「イっちゃったの?」
「……ん、…」

口元を手で覆い、斎藤は息を荒げながら服部を見つめた。

「服部さ…、ん」
「なぁに?」
「…気持ち、い…」
「ふふ、それは良かった。全部出したから、これで大丈夫だよ」
「…有難う、御座います……。」
「一緒に、寝よう?」
「……それは、…できません…。土方さんから、部屋に戻って休むのは…許されてない、から…。…頭を冷やせと、言われているので…。」
「斎藤君、」

障子戸を開けると、ひらり、部屋へと迷い込んだ白雪が斎藤の頬へと落ちる。

「戸を明けて寝てしまえば、外と同じ。…でしょう?」
「そん、な…」

服部の厚い胸板を押し返す力など、もう残されてはいなかった。下腹部に押し付けられた服部の熱いモノが、斎藤の体を火照らせて行く。肌と肌が触れ合う温かさに、お互い酔ってしまっていた。

「私、…怒られてしまいます……。こんな、」
「大丈夫、守ってあげる」
「…いけません、……居場所が、無くなっちゃう…。捨てられちゃう…」
「斎藤君、君の居場所は今は此処だよ?」
「……あ、…」

頭を抱え込みながら深い口付けをすると、服部は何度も崩れ死にそうな斎藤を抱きしめた。

「ね、斎藤君。今日何があったの?」
「……あの人に、」
「うん?」
「…お遊びのように、犯されて…それから、…あの人に、…信じてた人に、汚い、って…。…助けてくれると思った、…のに、好きでこんなこと…されたわけじゃない、のに」
「そう、…それはとても悲しかったね、」
「…死にたく、なった…。」
「うん、そうだね」

細い腰を撫でながら、身体を自身へと引き寄せる。二度と離したくない気持ちが溢れ出てくるのは、きっと自身も、斎藤の事を欲し、愛しているからだろうと服部は自覚していた。
(溶け合いたい)
心が読めぬほどに、悲しき事はないと淡雪は言い放つ。

「君が死ななくて良かった。」
「死んじゃったら、抱き合えないですね……」
「君の綺麗な死体を抱くよ」
「…冷たい、のに…。」


意識を手放した斎藤の唇を甘噛みすると、額を合わせ呟いた。

「…おやすみ。」





翡翠色に、染まれ、

end











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