嫌がる素振りを見せた眼は、床へ組み敷けばうっとりと恍惚を視ている。
文句を言うばかりの口は、妖艷に誘う言葉を漏らしている。


「可愛くねぇ…」


そっと白い肌に触れると、渇いた感覚が指を滑った。

「可愛くないのはどちら様ですか、」

不満な一言に対し、小生意気な返答をする斎藤の腰に手を回すと、永倉は自分の体幹へと荒く引き寄せた。

「お前だろ、可愛くないの」
「永倉さんだって、そう言いながらこういうコトするの凄く可愛くないと思いますけど。いや、十分可愛くありません」
「うるせーな、唇咬むぞ」
「……。」


長らく無心に行為へと堕ちていた筈だが、耳を甘咬みすると、色のある流し目で見つめられる。心地好い程のそれは、酷く感情を頗らせた。
衿を握ってくる姿と指先が、愛しい。


「なぁ、俺の着物ばっか抱き締めんなよ」
「だって、永倉さんの着物の方が永倉さんの匂い、いっぱい染み付いてる」
「…んだよそれ、人に汗臭い近寄るなとか散々言いやがるくせに」
「照れました?」
「照れねーよ」
「耳、真っ赤ですけど」

がぶりと鎖骨を咬まれた。するり、首筋を紺色の髪が伝っていく。
舌が這う感触も、唇に触れる温かさも、互いに全て確かめ合ってきたが、鼓動だけは噛み合わない。しかし考えてさえいれば、そんなことはどうでもよかった。

「くすぐってぇ」
「…永倉さんの肌、しょっぱい」
「あたりめぇだろが、お前を何回啼かせたと思ってんだ」
「………そっか、」

永倉の厚い胸板に頬を寄せ、斎藤はくすりと笑う。

「永倉さんの匂い、汗臭くても大好きです。一生懸命な味がしますから」
「は、意味わかんねぇ」
「一応、褒め言葉のつもりですが」
「褒め言葉じゃねーだろ、それ」

グイと布団の中へ引きずり込むように、永倉は自身の下半身を斎藤の白い太股へと押し付けた。
脈を速く打つ感覚が妙に鈍い。合わさる視線を反らすことなど、もう出来なくなっている。

「俺だってお前の匂い大好きすぎてたまんねぇんだよ」

不貞腐れたように呟くと、永倉は静かに斎藤の身体へと覆い被さった。
吐息も間も無い空間が、震動を十干している。

「はじめ、お前顔赤いよ」
「これはあんたのせい」



(引き寄せて愛狂わしく魅えた銀糸は美しい。)


end











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