幾度となく情を交わしたが未だ貪るような情事は続いている。
紅く照らされた部屋に紅い布団、白い身体に紅い痕。どれもこれも、うっとりするような芳しい情景である、まるで業火に葬られた二体の生き屍が在るように。

腰を艶かしく動かす青年の、その白い脚に触れながらも背中を撫で上げる。するとどうであろう、びくんと背筋を震わせ、潤む碧眼で服部を見下げた。
美しいと思った。
(まるで、地獄ではないかと時々思うのだ。)

綾取りに失敗したように、互いの手を合わせ、黒と紅の短い紐を絡める。絡まった糸はほどける事なく、そして刀で切ろうとも小指がボトリ。
愛しくなって愛しくなって、口を吸って、指だけではなく舌を絡めたいと、服部はゆっくり身体を起こしたのである。静かに、青年の脚を腕にかけて、壊れてしまわないよう――。大きな掌を背中に回すと、青年の口からは小さな喘ぎ声が零れ出た。

「斎藤君、私の肩にしっかりと掴まっていて」

のみ込まれている自身の摩羅が外へと出ないように、服部は胡座をかき、その上に青年を優しく乗せた。
結合部を確認しながら五度突き上げ、接吻をすれども歯がカチンと鳴る。堪らず込み上げる笑いを一舐めすると、青年の首筋に手を添え念願の舌を吸うた。

「ねぇ斎藤君」

吸いながらも二度、三度腰を揺らして青年の細い喘ぎ声ばかりを、この男は愉悦に堪能している。

「地獄みたいだね」

青年は小首を傾げた。
服部の突拍子も無い一言に、ではなく、青年は地獄、との一言に理解が及ばなかったのだ。服部と情を交わしている間、青年は少なくとも蜜のような甘露を味わい、欲界の只中に放られていると感じている。

「"邪淫"ってね、罪が重いんだよ」

青年は眉を顰めた。肉片が飛び散り、悲痛な叫びが浮かび上がってくる。断処にいる鬼の顔が、鮮明に頭蓋骨を抉じ開けた。

「なに考えてるの?」

青年の頭を撫で、白い身体を紅い布団に埋める。
圧死させるように覆い被さると、見えていた結合部はずぶずぶ蠢き、摩羅は青年の中を奥深く貫いて行った。
甘美な声が上がる。もう見えぬ結合部と、見える密着した、温かく湿った肌。この青年は、掴めと言えば、ずっと肩を掴んでいる。欲を打ち付けるたびに、固く締め付けてくる。これではいけぬと両腕も紅へ埋め、沈めに沈めてゆくと、その紅蓮の炎を青年は強く握り締めていた。
(自分が宋帝王になった気さえする、気狂いめ)
服部は自身を罵りながらも無心に青年を責め立てた。

「多苦悩処って知っていますか?」

ぽつり、青年は微笑みながら服部に問う。知らないと、そう答えてみた。青年の口から、声から、甘ったるく喉が焼けそうになりながらも聞きたかったのだ。

「一緒に燃やし尽くされるんです」

今よりきっと熱いであろうことは、容易に想像がついた。しかし骨の髄まで溶け合って、朽ちた灰となり、それが妖異と成りて交わるのならば、それもまた一興である。

「私は、君と一緒ならば燃やされても構わないと思っているよ」
「…嬉しい、です」
「でもね、私は欲深いから……。」

青年の脚を掴み腰を押し付けると、脈を打つ太い摩羅は再び簡単にのみ込まれて行った。青年の色のある表情からは目を逸らす事など出来もしない。
(淫に、墜つる)
吸い付いてくる感覚に余韻を浸らせながら腰を引き、もう一度、突き上げるように下半身を押し付けた。その行為に青年の身体がズッ、ズッ、と布団を滑り、終には畳へと頭が出そうになっている。服部は青年を激しく揺さぶりながらも、身体を抱き締めるようにして叉、紅い布団の中心部へと引きずり込んだ。

「君を地の果てまで責め立てる極卒が羨ましくて、地獄へ墜ちても我先にと怨むのだろう」
「今は、"人道"です。快楽も、ありますよ?だから…、快楽ばかりを味わって、来世は一緒に"衆合地獄"へ参りませんか?」
「斎藤君…。」
「私の極卒になって、服部さんが、生きているうちに私を十分苦しめて下さい」

愛し過ぎた。こんなにも、求められているとは思いもしなかった。

「地獄は、どのような苦しみがあるのですか…?」

欲痴に蝕まれそうである。激しく繰り返される行為の中、懇願するように青年は服部にすがってきた。淫靡な姿に惑わされ、肉体を喰らわれそうである。
青年は快楽を苦しみと言った。言って下げた口角を、服部は舐め上げた。

「こうやって、肛門に鉄の棒を入れられて、焼かれるんだよ」

その鉄の棒は五臓六腑を突き破り、口から出て串刺しの異名を唱えるのだが、せめて今叶うのは精々内臓を熱くさせ、白に濁すことだけである。
青年の口内へと流し入れた唾液でも、それは熱い赤銅とはゆかぬのだ。

「口から煮えたぎる赤銅を流し込まれたら、身体の全てを焼き付くしてね、肛門からトロトロと流れ出てくるんだ」
「服部さん、果てそう、ですか?」
「そうだね…、斎藤君の中が気持ち良すぎるから、後少しで果てるよ」
「私は服部さんのが、気持ち良いから、果てるんじゃなくて、昇天しそう、です」
「…君、そういうこと恥もなく言っちゃうんだね」
「服部さん、」
「…なに?」
「"赤銅"じゃなくて、"白蝋"が流れ出てきますね、私の中から」

淫靡な笑みであった。
青年が言う通り、青年の中から流れ出てくる液体は、綺麗な緑青ではなく、やや半透明の白い液体であったが、青年は満足そうに服部の腕の中で微笑んだ。

「斎藤君、濃い"白蝋"ではなかったよ、互いに求め合いすぎたね」

攣縮する摩羅を引き抜き、長い指で中を掻き混ぜる。トロトロ流れ続けるそれは、紅い布団に染みを作った。それは蝋が溶けた後のようであり、それは精液のようでもある。

「"どうかお許し下さい"」

地獄などとは、縁起でもない。しかしながら人道と死は繋がっている。死と地獄道は迷いを介し、これもまた繋がっているのだ。

「許しを乞うと、どうなるか分かってるの?」
「はい、許しを乞うと獄卒の怒りは増していきます」
「君がもっと苦しい思いをするだけなのに、どうして…。」

青年は哀願をするように首を真横へと振った。
炎が渦巻く中から白い手が伸びてくる。やがてその片方の手は服部の首筋を這い、鎖骨の窪みへと誘われた。もう片方の手は脇腹を這い摩羅にキュウと絡められる。

「求めすぎてはいけないのですか…?」

その手をゆっくり上下させ、青年は服部の摩羅を扱いた。何とも言われない感覚が身体を恍惚に痺れさせる。

「そんなことしたら斎藤君の手が汚れるよ」

大人気ないと服部は自負している。本当は自分自身だって求め足りないと感じていた。もっと、ドロドロに絡んで墜ちたいとも思っている。思えば思うほど、青年のひんやりした手が熱く反り勃つ摩羅を擦り、強い刺激を覚えた。押さえられながらも指と指の間に挟み込まれては、快楽に身を委ねるしか手段はないのである。
(――愛しい。)
青年を抱き締め身体を横にしようとも、その手は何度も何度も摩羅を扱く。吐息が、漏れる。そのような中、青年は艶かしい舌使いで唇を舐めた。

「口淫、したいです」

遠くに転がった枕を引き寄せ、そこに頭を置くと青年の顔がよく見えた。
摩羅すべてが青年の口内に入るわけではなかったが、根元を舐めあげてから半分までを咥え、手淫のように顔を動かす。その懸命な仕草を見ているだけで、服部は中を満たされる思いであった。

「齧っ、て?」

本音だったのかもしれない。自身の胯座に顔を埋める青年が、摩羅を食べながら血を啜る。そういう見世物小屋のようなお話でも、存外悪くはないと思うのだ。

咥えられた中で、先端は舌に姦されている。そこに、歯をたてられることも痛みが存在することも、決して何もなかった。

「そのようなことは致しません。心から、お慕い申し上げております」

青年はそう言って、再び摩羅を咥え込む。
それからはよく分からぬまどろみの中で溶け合った。青年の咽がゴクリと鳴ると、半ば引きずられるように獄卒から身体を奪われ、熱を注がれるのだ。

「君と一緒に焼き付くされるのならば、喜んで赤銅を飲もう」
「一緒に焼き付くされるためにも、私を必ず連れて行って下さいね、」
「ああ、約束する」
「貴方のことを、ずっと、待っています」

縛られ業火に焼かるる、生かしもせぬ殺しもせぬと、二千年逃がしはせぬ、と、熱風の中、猛火に焼かれながらも金翅鳥が叫喚している。
大海を扇ぐ竜を、首から喰らい尽くしてやったぞと。


end











×