北辰一刀流の道場で初めて出会った頃から、そして試衛館という小さな道場に一緒に居候するようになった頃から、あれから毎日のようにいつもいつも近くに居るというのに、飽きもせず互いに手紙のやり取りをして、此の手紙はさてさて今何通目だろう。

(この字、見てるだけですごい落ち着く。綺麗な字、)

読み耽って耽って夜は行灯の蝋燭を何本立てただろうか。明け六つから何日目の暮れ六つだろうか。平助は右手の指を折ったり伸ばしたりしながら一生懸命に考えたが、いまいちよく分かろうとしなかった。
そんなことよりも、この手紙をもらった時、自分自身の、そしてあちらの、様々な感情の景色を眺めては、今までの出来事を振り返る事が何より楽しかったのだ。

(どんなに短い、一言しか書いてない僕からの手紙でも、必ず丁寧に季語を入れて、それはもう手紙らしく返してくれるから、僕はちょっと季語に詳しくなりました、そう自慢気に言うと必ず必ず笑って褒めてくれますよね、全て貴方のおかげなのに)

足を伸ばすと文机がガタンと揺れた。斜めになった文机に項垂れ、平助は大きな溜め息を吐いた。先程煎れた茶はとっくの昔に冷めている。

「僕たち昔から変わってないですよね、皆は変わっちゃったけど…。変わらないのがいいな、変わらないのが。だから変わらない貴方とこの手紙たちは僕の唯一の宝物。ふふ、言いたいこといっぱいあるなぁ、何から書こう?」

そうして平助は意気揚々に筆を取り、手紙を書き出し始めるのだが、ここ最近はいつの間にか寝てしまうことが多くなっていた。しかし朝になると書きかけの手紙は手元から綺麗に無くなっており、手紙の返事は頭元に律儀に置かれている。
(最近僕が酷く疲れているから気を使ってくれているんですね…、毎晩羽織も肩に掛けて下さるなんて、なんてあったかい)

「いつも有難う、山南さん」

冷たい湯呑みに入れてある冷たくなった茶を飲み干し、平助は鼻唄を歌いながら頭元に置かれていた手紙を今日も嬉しそうに開く。

「“近々平助に会えるのを楽しみにしています”──か、あれ、近々僕死ぬの?」


湯呑みが割れた。滴る茶は、まるで御機嫌。

end











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