古い三つ折り人形の綺麗だった長い髪を切り落として黄金の鮮やかな帯も取り紅い優雅な着物も脱がせ素朴な上品で暗い色の着物を着せ総司はいつも其の三つ折り人形を小脇に抱え朗らかに笑っていたが変わり果てた可愛い三つ折り人形は綺麗な髪色を輝かせ総司の胸の中で朗らかな表情で佇んでいたし其れを可哀想だとは思わず誰かに似ていると感じた。

「私だけ寂しく死んじゃうでしょう。だから私はこの子と一緒に棺桶に入るんです」

だから大切にしているのかと思いきや、総司は大切な三つ折り人形の左手を引きちぎり引きちぎり、まるで気狂いのように。その日、珍しく夕餉を右手で静かに食する一は左手が痛くて箸が持てないと言っていた。次の日、総司は三つ折り人形の右足を引きちぎり、次の日は左足、翌日は右手で四肢の無くなった三つ折り人形は畳の上に転がされている。一の姿を見なくなった。

「どうしたんです、永倉さん。血相を変えて」
「その人形、あいつに似せたものだろう」
「おや、永倉さん人形に興味でもおありですか」
「人形に興味なんてない。興味なんてないが、一を連れて逝かれちゃ困る」
「手足のない彼でも想像しましたか、手足がなくて可哀想でいじらしい芋蟲のような彼を想像しましたか、」

三つ折り人形の首に総司は手を引っ掛け唐突に意味もなく笑うのだ。真上に引いてしまえばもう首は取れてしまうだろうに。そうなれば死ぬ他無いのに、それでも連れて逝こうとする総司は相当な寂しがり屋なだけなのに、独りで逝こうとしない総司に苛立ちを覚えた癖に、何を期待しているのか四肢の無い一の姿を想像しては身震いを起こしている自分自身をじっと見た。

「人なんて独りで死ぬもんだろう」
「おや、永倉さんは私に独りで死ねと仰っておられるのですね」
「違う、それは違う総司」
「そうではないですか、そう仰られておられるではないですか」
「俺は連れて逝くなと言ったんだ」
「だからそれは独りで死ねと仰っておられるのでしょう」

この会話は終わりなどなく、連鎖する。これはどうしたら良いものか、ではなく、幾度となく繰り返されるのではないだろうか。どうしたもんか。総司は三つ折り人形から一時も手を離さないのであろうし、譲る気もない、黙って其れを握ったままである。


「独りで死んで欲しいと言えば、思えば、それまでだろうけれど…。」
「まあ、永倉さんは正直者ですねぇ。あなたの方が連れて行きたいだけでしょう」


静寂な部屋には三つ折り人形の胴体と頭が転がっていた。
その日一は何食わぬ顔で左手に箸を持ちながら俺の隣で、高くもない少し低めの声でやんわりと俺の名を静かに呼んだ。
「永倉さん、永倉さんが噛んだ左手やっと治りました。痛かったんだから。ねえ、両手両足もう縛っては嫌ですよ、身動きも取れないのは芋蟲のようでとても気恥ずかしいのです。そういうの、お好きなら致し方ないですけれど」


end











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