河原、橋の丁度真下の河原。
その河原に茣蓙が、一、二、三枚。たくさんの見物客の中から一つだけ仕入れる事が出来た情報は死体が一体、ということだけ。

「だけど茣蓙は方々に三枚、死体は一体」

茣蓙をめくって見たい。そうすれば答えはあるんだから。
簡単な言葉を並べ、遠くの山にかかる黒雲をぼーっと眺めていた。不思議と風は吹かず、落ち着いた空模様をしていた。布団を干すには勇気がいるけれど。

「茣蓙三枚、死体は一体?」

結局この問いに辿りついてしまう。
真下の河原は血まみれ、御世辞にも綺麗な色とは言えなかった。

「汚い色だよね、乾いた血って」

声がする方へ顔をぐりんと向けると、そこには見覚えのある顔がひとつ。そう、よく見覚えがある。そうだ、一君の知り合いの人。何度か道場の前に来ていたのを見た事がある、何度か、ではない気もするけれど。一君はいつも嫌そうな顔をしてるかな、確か歳三さんはこの人のこと、嫌いだった筈。
歳三さんは好き嫌いが激しいから大体嫌いな人の方が多いけど、歳三さんが嫌いでも私は好きだったりする。喋った事はないけど、そんなに悪い人のような気はしない、私は。では、一君はこの人のこと嫌いなんだろうか?

「君、よく惨殺死体を眺めながら柏餅食えるね」

そう言って食べてしまった団子の串を河原に放り投げると、右手に抱えている包みからまた新しいおいしそうな団子を取り出していた。

「あなたもよく死体眺めながら団子食べれますね」
「うん、俺は別にいいの。あの死体はよく知ってるから」
「お知り合いだったんですか、」
「うーん、知らなかったけど」

団子の串をまた河原へ放った。

「答えはね、抜いた瞬間に右腕を切り落とす。そうしたら右腕はブッ飛ぶ。自分の右腕を無くしたらびっくりしちゃうでしょう。その動揺を利用して今度はね、首の付け根から思いっきり斜め下。ひとつのものがみっつ、それが答えだよ」

笑って河原下を指差した。茣蓙がみっつの理由、大正解。

「一君から聞いてるよ、君、とても剣術が得意なんだってね」
「はじめ君…」
「君ならどうやって人を殺す?」
「私だったら、まず突くと思います」
「ふふ、突きで人が殺せると思ってるの。竹刀と刀は違うのに」

じゃあね、とその人は鼻唄を謡いながら去って行った。
私は残りの柏餅を全部くちへ押し込み、もう一度河原の茣蓙を眺めた。
もしかして、あの人は惨殺死体を一番よく知っているのではないだろうか、もしかして、殺したのは、



「人を殺したことはないなぁ、やっぱり違うのかな」

突風が吹いて茣蓙がふたつ捲れた。
蒼白い右腕と、首と左腕付の斜めに斬られた胴体が転がっていた。

end











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