こんなにも間近で死体に成りつつある物体を見たことがあったろうか。
全てが歪んでいる中、凛とした平助に斎藤は少しだけ恐怖を抱く。

「人にした酷い事を忘れて、自分は悪くないですといったふうな顔をして。そして自分を庇って逃げて、仕方なかった、という。僕の方が辛いのに、おまえは自分の方が辛い、哀れであると演じる、人はおまえの方を信じ、僕の存在なんかには気付かない。それをおまえは心の底で笑っている。周りは全くこういうことに気付かないかも知れないけど、傷ついた僕は誰よりもおまえが最低であるということを知っている。そして決して忘れない。許さない、絶対許さない。人を傷つけて知らんぷりして、おまえだけが一生のうのうと笑って過ごせると思うなよ、絶対絶対自分に返ってくるのだから。おまえが死んでも許さないからな、絶対許さない。おまえ、武士の恥である死に方をすればいい、だれのやくにもたたず、うごけず、じぶんじしんに終止符を打てない死に方を、ただ死をまつ死にかたをすればいい、畳の上で、葛藤してしねばいい。無意味に生きながらえて死ね、恥ずかしく畳の上で座して死ね。それでも僕は許さない、おまえを絶対許すわけにはいかない」

右目は虚空を見つめているが、左目だけは斎藤を鋭く睨みつけていた。
斎藤は再び恐怖を覚えた。




end











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