優しかった、とは何なのか。

金平糖や餡の入った餅を多めに買って、それをついつい他人にあげる。道の隅に佇む顔も刻まれていない地蔵に手を合わせる。結局、食べたのは一口の金平糖だった。結局、優しいとは何なのか。結局、何だったのか。

「平助、地蔵さんだよ」

手、合わせないの?いつも手を合わせて朗らかに笑っていたじゃない。そう付け加えると、それはもう良いといった具合に平助は口を結んだ。少しだけの冷たい風に、平助の後ろ髪が揺れた。遠い目、虚ろな目を抱えていた。人は変わるものだと伊東は悟った。

「伊東先生、そんなものに手を合わせたって何もなりませんよ」

ああ、やっぱり。確信したように伊東は腕を組む。鳥の囀りがなんとも惨い晴天の朝であることは確か、地獄絵図の始まりに過ぎぬ。

「お願いをして何になるの。お願いしてそれを叶えてくれるの?一度足りとも叶えてくれないでしょう?それなのにお供え物もらって、なに。何もしてない奴がみんなに愛されて、なに?神だの仏だのいないに決まってる。だって、助けてくれないもん」
「…平助、それは篠原君の前で言ってはいけませんよ」

ふう、と大きな溜息は白でなく、黒である。

「助けないで見てみぬふり、それを楽しんで嘲笑ってる。僕、神や仏がこの世で一番の善人ぶった性格の悪い悪者だと思うよ」

その言葉に、伊東は一瞬息を止めた。身体中が冷やされていく。
しかし、言われてみれば平助の言う通りだと伊東は頷いた。そして、伊東は平助に微笑んだのだった。


end











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