座敷には消炭色の鋏が置かれてあったが、此れは悲しんでいる表情を色濃く見せた。
まるで鋏は自身が生きている様に振る舞うのだが、喋れる筈もない。また、此れを扱う生きている筈の者が、死んでいる様に振る舞う。

「芸の一つ覚えか、」

斎藤の冷たい指先に口付けると、土方は微笑を浮かべた。
消炭色の鋏を一撫でする。斎藤の心の中は、虚空が唯々浮かんでいる。

ぽとり、音を立て水仙が頭から落ちてしまった、しかし殺した鋏は笑わない。



「こんな花、嫌いだって言っただろう?」
「せっかく生けたのに、酷いです」

いや、鋏は笑う。笑って笑いながら頭をちょん切っていく。哀しい気持ちも愛しい気持ちも分からないまま、ひたすらに沈んでいく。何も見えないのは寂しい事だ。だが土方は何もかも知らぬまま、それが寂しい事であると思っている。
それはつまらぬ事だと、思っている。

最期の水仙の首が落ちますように、そう願いつつ切りますよう、と鋏を握ったその手を、斎藤はついに噛んでしまった。


「これはあの人が下さったんですから、切らないで。切ってしまえば此の思いも土になりそうだから、やめて下さい」
「その思いは、なんと申す」
「“心中”」


死んでしまった全ての水仙が喋る。死ぬのは惜しい事をした。口を揃えてそう言うた。



end











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