「死んで目すらあけぬものの、これは何を想っているのだろうか」

ぽつりと言った沖田が座る真向いには、首がちょこんと置かれてある。閉じない目は半目と云った所であろうか。沖田が喋っても首は死体、そう、死体という物体である。沖田の問いに斎藤は首を傾げたが、問いを投げかけた本人は更に首を傾げている。
只、その首の切口は綺麗に真っ直ぐだ。斎藤は関心した。

「何も想っていないと思う。だって、それは死んでいるから」

湿っぽい石の塀に少しだけ寄り掛かりながら、斎藤は答えてみる。真ん丸い目をした沖田が、此方をじっと見た。濁りのないまあるい眼球だ。

「死んでも想う事はあると思うんだけどな」
「…だって沖田さん、それ、身体と離れてますよ。あなたがさっき殺したでしょう」

見事な殺し方であったと思う。転がった首を探して、そこの切り離された身体の近くに置いてしばらく、その首は血色良く何事も無かったかのようにまばたきをしていたのだから、お見事。
まあ関心関心と誉める間に動かなくなってしまったのだが、そこは御愛嬌の為す技であります。

「でもあっという間に死んだから、死んだ事に気付いてなさそうですけどね」
「いや、気付いてると思うよ、今まさにびっくりしてると思う。今日死ぬなんてまさか、思ってなかったんだと思う」
「死んでからは何も分からない。死んだことはないから分からないけど、」
「後悔してる」
「殺した事について?」
「違うよ一君、この人が後悔してると思う。だって、今日の晩御飯を楽しみにしていたかもしれないし」

髪を鷲掴み、目線が合うように首を持ち上げながら沖田は真剣にお話をしている。
血の滴り具合は正に時雨。身体から溢れ出した血は正に反物。首は、青白い顔をしながら喋りたがっているのかもしれない。本当に、さっきまで生きていたのだなあと斎藤は振り返る。振り返る、沖田の握った首は、振り返る様に振り返って此方を見ている。左右の視線が違う事は羨ましい事だと斎藤は思った。頭に映る景色は案外不便かもしれないが。

「沖田さん、感情を持てばキリがないよ。」
「うん、ごめんね。こういう事考えて人斬らなくちゃいけないって事、毎回学んでるのに」
「人を斬る前に感情を持てばいいんじゃない?」
「ああそれは出来ない。だって人斬る時の感情は邪魔なんだもん」
「人斬った後に感情持つより随分良いと思うけど、違う?」

どうでも良いと云う風に、沖田は首を神社の境内の裏、薄暗い雑木林の茂みに放った。蹴鞠の様に転がって行く其れは、思いっきり叫んでいたが、きっとそれは狐の仕業。

「一君はまだ死なないよね」
「多分。」
「そう、良かった。きっと私もまだ、ずっと死なないんだと思う」

白い狐が出て来て死体の血を綺麗に啜っていた。それを不思議そうに見つめるわけでもなく、沖田は斎藤に微笑みかけると、鼻唄を唄いながら颯爽と神社の石段を降りて行った。
何気なく狐に会釈をした斎藤は、首の無い死体が立って歩く姿を目にしたが、首を探しているのだろうとすぐに察する事が出来た。そして足早に此処を立ち去ろうと心の中で二度も思った。早く立ち去らないと、きっとあの死体はお前が殺しただろう、私を。と絶対に決めつけてくるからである。

死んでいる過程は如何程か、死んでいる基準はなんであろうか。
彼に聞けども彼は笑むばかり

end











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