開眼すると、身体の痛みと少しの快楽があった。
おはよう、ではなく、喋るな、の一言である。

必死に喋るなと訴え、永倉は斎藤の唇を塞いで斎藤を抱いている。気狂いでもしているようだ、喋るな、それしか喋らない。どこの部屋だか知らないが、部屋中は御札だらけだ。その部屋の障子を、誰かが開けようとしている。ガタガタと揺れている。

「一ちゃん、いるんでしょ、出て来てよ。ねえ、一ちゃん、オレのとこおいでよ。ねえ!助けてあげる、一ちゃんが頭おかしくなっちゃうのは嫌だよ、ねえ、お願いだからこっちに出て来てよう」

障子の隙間から手招きをする腕は、あの古傷からして確かに原田のものだ。
わけがわからなくなって、眼球を左右にぐるぐる動かすと、ぎゅう、と更に永倉は斎藤の口を塞いだ。苦しい。痛い。こんなことをする筈のない彼が、こういう事をしている。おかしくなってしまった、哀しいと思えば涙が出る。その涙に永倉の手は微かに緩んだのである。

それからどうしたものか、永倉の手中から逃れ、原田の腕が手招く方へと斎藤は走った。
障子が開くと、その部屋から数多の御札が足元をぞろぞろと流れ逝く。

「ああ、一ちゃん可哀想に、手、縛られてたの。赤くなってる、可哀想」

原田は斎藤の両腕の紐を綺麗に解き、脅える斎藤の火照った身体を抱き締めた。

「よかった、原田さんがいて」
「うん、ほんとだよ。もう心配だよ、一ちゃんを独りにさせたくない、危なっかしいんだから」
「ね、永倉さんどうしちゃったのかわかんなくて、原田さん、助けて」
「あれは新八じゃなくて、鬼だよ」
「っあ、」

噴き上げる真っ赤な血が自分のものだと知った時には、もう既に原田から首を食い千切られた後でもある。




「一ちゃん!」
呼ばれて開眼すると、快楽が其処に押し寄せていた。

「原田、さん」
「そんなに良かった?意識失っちゃうなんて、オレ、すごく嬉しいなあ」

部屋の中にいた。流れて逝った御札も何もかもそのまま、障子も閉じたまま漫ろに此方を見ている。しかし、あちらにうつる影は必至に部屋へ入ろうとしている。

「はじめ!ここを開けてくれ、お願いだから。なあ、お願いだから何も喋るな、そのまま部屋を出て来い、いいから喋るなよ、一切喋らずに部屋から出ろ、それからは俺が守るから、なあ」

外から声を上げるのは永倉である。
動揺しているのか、斎藤は原田の顔を見た。原田はいつもの顔で笑っている。原田は、永倉を鬼と言った。

「ねえ一ちゃん、何で新八があんなに喋るなって言ってると思う?」
「…わかんない」
「喋ったら鬼に魂持っていかれるからだよ、でも一ちゃんは俺に助けを求めてさあ、部屋を勝手に出て来て喋ってくれたもんね?」
「どういう意味…」
「新八じゃなくて俺を選んだってことだよね」


また笑った。歯がちらりと覗いた。血がついていた。
「いただきます」


end











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