布団からもぞもぞと手を伸ばし、行灯に火を灯す。
ぼんやりとした惑う程の仄かな明かりに、服部は目を細めた。白い手を握り引き寄せようとしたが、身を引かれてしまってはどうしようもない。

「どうしたの、」

腰を撫でながら聞くと、僅かに身体を震わせた。既に困り顔でもある。

「起こしてしまって申し訳御座いません…。厠に行こうかと思って…」
「お腹痛い?」
「…し、小水です…。」

ぎゅ、と足先に力が入った。
余程我慢していたのだろう。そういえば斎藤の身体を大切に抱きしめて寝ていたなあと服部は思い返した。

「その恰好で行くのかい」
「えっ、」

自身の身体に目を移すと、斎藤の顔は忽ち真っ赤になっている。

「ふふ、それで厠に行くのはちょっとなぁ…」

行灯の火がゆらゆら揺れる。赤襦袢が白い肌に映えて、まるで怖いほどに美しい。しかし、纏った当の本人は、顔を覆って身を縮こまらせている。
そのような斎藤の可愛い仕草に、服部は優しく微笑んだ。

「驚いた?」
「…っ驚いたもなにも…これ…っ」
「斎藤君が気をやった時にね、赤襦袢を着せてあげたんだよ。透けてて、凄くいやらしい」
「着物、返して下さい…」
「さて、何処に行っただろう。私の羽織は此処にあるけれど、」

惚けたように言って黒い羽織を斎藤の肩に掛けた。色情に負けて首元に触れると、ひんやりとした汗が滲んでいる。どことなく、呼吸が浅い。

「大丈夫?早く厠へお行き。」
「襦袢見えるっ…、だめ…着物ちょうだい…」

懇願するような必死な顔で、服部の着物をきゅうっと握り締めてくる。情事中と何ら変わりのない反応に、もっと愛でたくなってしまうのは──。
やんわり腰を擦ってあげると、斎藤は下唇を噛んでいた。

「じゃあ私の着物を着て行く?脱がせていいよ、──でもね、」

感嘆だと言っても良い。可哀想な顔や声を聴く程に求めたくなる。座り込んだ斎藤の足を布団の中へ引きずりこむと、あっという間に見下げている。
無駄な抵抗と言えば、肩を押し上げられた事だろうか。

「脱がす前に斎藤君が襲われて終わり、だと思うよ」

グイと足を折り込んでやると、斎藤は小さく悲鳴を上げた。

「服部さ、お願っ…い、漏れる、漏れちゃう、から…」

身を捻らせ、服部の腰へ足を絡めている。とろとろした斎藤の目から、ぽろぽろと涙が零れていた。触れ合う肌はべっとり。じゅくじゅくに濡れた襦袢がぐちょぐちょになるサマを思い起こせば、服部は斎藤を今抱かないわけには行かなかった。

「いいよ、漏らしても。ここでして、小便。」
「だめ…っ、漏れる漏れる…ぅ」
「お腹押したら出てくるかなあ。びっちょりになるのが嫌なら、飲んであげよう」
「ほんとぉに出るっ…出ちゃうっ…やめて…!」
「じゃあ、先、少しいれるだけ」
「あ、だめ、それも、だめ、」
「漏れる?」
「あ、 あ、だめ 、」

ぱき、と伸びた小指の爪を噛んだ。


「意地悪してごめんね、だけど綺麗な爪は噛んじゃいけないよ。ごめんね、厠へ連れて行ってあげるからね。」
「…う、…ごめんなさい、ごめんなさ…い」
「おんぶがいい?それとも抱っこ?」
「…抱っこ、」

静かに襖が開くと、部屋へ滑り込んだ夜風は、行灯の火をかき消した。
くしゃくしゃになった布団がひとつ、温もりを噛み締めている。


end











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