散らかった文机の紙面に一通り目を配ると、土方は煙管をふかして一服をする。 そうして立ち上がり、足元に紺青の羽織を脱ぎ捨てた。 燭台に掲げた蝋燭の火を消せば、昼下がりの部屋は一度に暗くなる。それから奥の部屋へと足を踏み入れると、そこには夕闇が広がっていた。 欄間より出でたるは、浮かび上がる菊の花、のみである。 敷かれた布団の上で蠢く人間の影へ、土方は愛おしそうに手を伸ばした。 着物から覗く白い脚、自身を覗き込むように見つめてくる紺青の目、もっともっと、そう求めては着物の裾を捲り上げる。 厭らしくも後孔に挿入された棒の蠢きにも、咽が、ゴクン。 「どこでこんな芸を覚えたんだか、」 聞くと左指の左から四番目、左の薬指を噛みながら斎藤は微笑んだ。 「昔、陰間茶屋へ身売りさせられそうになった事があって、そのときに、人さらいのおじさんがおしえてくれたんです」 「──へえ、そりゃアいい。」 “棒薬”を引き抜くと、斎藤は小さく喘いで左の薬指を深く噛んだため、土方はその左の薬指を優しく舐めた。 「俺の棒はこんなもんかよ」 「いいえ、これは膨れていない時の大きさ」 「なァるほど、」 「膨れればもっと大きいでしょ。ね?」 土方の膝上から、棒薬は暗闇へと転がって行った。 大名屋敷のような屯所内の此の部屋へは、何も音は響かない。此方の声も外へと何も聞こえまい。黒い部屋と一すじの淡い光、仄暗いまま。 斎藤の頬を撫でながら身体へ覆い被さると、いつも、とてもとても喜ばしい顔をする。 「お前、俺が買ってやった着物、もうこんなに汚してやがる」 「私が何回も自慰してたのを横目に、自分もここ、弄ってたくせに。ちゃんと見てますよ。それに、この紅色のべべは女物、」 「似合ってりゃいいだろ、お前に。」 「ああ、もう我慢できないです」 腰紐を解くと、それを土方の首で丁寧に結ぶ。 「腰が揺れてる」 「…待たされる身にもなって下さい」 「待たせる身にもなってみろよ、一。」 斎藤の表情一つ一つが、愛らしいと土方は思っている。二度と、手離したくはない。 「なあ、自分の指噛むのやめろよ。俺の指を噛んだらいいじゃねェか」 「んん、」 「唇も噛むなって、俺の、噛んで」 抱き合うと、じんわりと身体の底から熱くなった。 「奥、…奥に、好き、としぞうさん」 「愛しているよ、一」 斎藤の足指がぎゅっと反応し、がくがくと足が震えている。 それでも自身を求め、一緒に沈む。飾っていた花が首ごと落ちたのかさえ、分からないが、枯れている。 愛しているのは──、愛していた。 end ← ×
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