小さな異空間で抱き合ったことがある。幾度も。 手探りをしてみたら、髪に触れてしまった。親指を動かしてみたら、肩に触れてしまった。足を伸ばしてみたら、君の股にスルリ、入ってしまった。 それぐらい(それぐらいで)、欲情して(色妄して)、自分たちが何処に存在しているのかも知ろうとせずに。 名など、不知火。 こういう行為がどんなものだとか、それからの影響とか依存とか寿命とか殺意とか、殺意とか。 ぴくり肩を強張らせ、我が見える筈なのに見えていないところとか。 「苦しい?」 コクリと頷いた。 ああやはり、こんな酸素も少ない場所ではね、苦しいと顔を歪ませる筈だね。息継ぎを早めないとホラ、ころりと死んじまうよ。 抱きながら君の白い胸に耳をあてると、僅かながらもまだ心臓というよく分からぬ個体は弱々しくも動いていた。 これが止まったとしても行為は続けるつもりでいる、 「一生放すまい」 そう言い静かに口付けた。 「僕は君のことなんか知らないのに!」 わああと叫んで肌に爪を滑らせてくるものの、血は当たり前の漆黒色。 (漆黒色と黒の境目が知りたくてしょうがない。) それからは痛いと感じる事もなく、感じるには脳内の酸素が減退しすぎているのではなかろうか、と。お互い様に如何様に。 それは叫ぶ程に蝕んで痙攣を起こさせて、おられる? ガクガクと折り曲げた体が痙攣し、指先を色っぽく我の眼(まなこ)に映した。 思わず、口付け、た。 あれあれ、君を犯すほど、君は涎を垂らしながら痙攣していくのだね。 「そんなにいいの?」 クスリと笑う度にビクビクと腰が勝手に動く蠢く。 きっと、体内の各細胞が様々な遺伝子を変化させ、こぉんな狭い空間に適応させようとしているのだから、なんだかその働きが無駄な足掻きにしか見えなくて、ホント、仕方がなくて可笑しい楽しい面白い。 (神経を抑制させちゃえばこっちのもんなのにね、) 「ねえ君の名前はなに?」 「名前はなに君の、ねえ」 目が虚ろになってるよ。 「神経イカれちゃったんだね」 「イカれ、ちゃってたよ神経」 透明な目玉と流れる涎が一瞬にして赤く染まってしまいました。 「あはっ、可笑しいね」 「可笑しい、うふふ、」 意識消失の君を抱いたまま、羊水の淵から這い上がってみると、君は甲高い声で啼いた。 「らいぞう」 ふと思い出した忘れる筈もない名前を耳元で呼ぶと、記憶を捨てる人のようにとろんと眼を開ける。 「三郎、おはよう」 毒物性無酸素状態から。 「ん、おはよう」 初めまして。 end ハイボクシフィリア(低酸素症を引き起こすことに性的興奮) ← ×
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