暑い暑い真夏日、それこそ身体中から煙が沸き上がるような、そんな最悪な日に限り、部屋の戸全てを閉めきってしまった。

光も何も入らぬように。蝶も百足も、声すらも。
「雷蔵、」
君だけは、どうしてもどうしても大切大切すぎるので、ソッと脚に手を添えた。

(どうしてこんなにも震えているのか)
肌を伝わる脈拍も異常に敏感に呼応する。ああこんなに、こんなに我慢しなくてもいいのだけど、

目があった。


「大丈夫?」
頭を撫でながら声をかけると、口を僅かに開きながら目を潤ませて。自慰をして下さるような開け方とは果てしなく。唾液もなにも無くなったのか、ねっとりとした感性はない。出来るものならば、舌を挿し込み唾液を送り込んであげてもいいのだが。
今はそれが目的ではない事は確かに。確、信。



いじらしい。
そう思って雷蔵の下っ腹に顔を埋めると、ビクリ、反応が返る。見上げると、彼は泣いていた。

「どうしたの」
「…、い……」
「ん?」

青ざめた顔色の口元へ耳を寄せれば、「お願い」と掠れたような声が少し少し触れてくる。
お願いとは、大体あれなんだなあとか、きちんと理解しているからね、つまり君はこの部屋を出たくて出たくてしょうがないのだ。
その前に、100時間監禁されっぱなしの暑く暗い部屋から、その震える脚で出れると雷蔵は思うの?


「ね、いい加減にしないと、体に毒だと思うよ」
そう言えばごめんなさいごめんなさいと頭を下げながら涙をポトポト。だから何なのだろう。その先をどうして欲しいか言わないなんて、
(本当に君は控えめ過ぎて可愛らしい)


「愛撫してあげようか」
(喉が渇きすぎました)


抵抗なんかしてもしなくても、震える足は変わらないのだから。ああ至極嬉しいことです、自身にとって。

「さぶろう」
赤子のように大泣きして、泣いて泣いて身を捩らせ。可愛いとしか言いようがない頭を引き回してくれたら、どんなに。
「背中が痛いイタイいたい――――!」
「うん、だからね、楽にしてあげるから」

喋ると抑制できなくなったソコは自動的に排出され、唇を伝って厭らしく漏れた。
長く長くこんなに愛しい想いを込めて何かを飲んだのは、初めてかもしれない。雷蔵のをいくら口淫したって今みたいに長くはないし、アレは一瞬で終わってしまうだろう事だから。


ゴトリ、雷蔵の体が床に落ちると、いつもの情事後に吐く息を幾度も繰り返していた。
欲情するぐらいに汗をたくさん流してるクセに、俺にたくさんくれるのだから。
(強制的だけど、)



頬を火照らせまだ床に寝転がる愛しい雷蔵の額を撫でつつ、口から溢れ、床に数滴残してしまったものを、丁寧に舌で舐め取る。
不思議なほど唾液と絡んだ。

「汚いのに、」
突発的に震えた声で君は言うが、生憎俺は汚いものを知った事がない。

震えと脳貧血が収まった後の君は、手慣れた手付きでゆっくりと袴の紐を外してくれる。
「汚いよ」
言われたように今度は顔を除き込みながら言い返してみるが、

「汚くないよ、だって僕は三郎の事、たくさん愛してる」
「あ、」
嬉しさと尺八の快感が見事に重なった。恥ずかしいような照れるような。
(一番汚い俺を自ら好いてくれるなんて、なんて、なんてなんて、どうしたら良いのだろうか)




髪をかきあげる雷蔵をボゥと見つめていると、体の底からムズムズ込み上げてくるような、
そんな残尿感が堪らなく。

悦に入り、顔が紅潮しつつもニヤけてしまった。
(監禁されてるのはどっちだろうか?)


分からない。

end











×