ぷっつり、針が眼球に刺さったように何かが、頭の中で悲鳴をあげた。
痛くはないが、決して痛みを感じないわけではない。

長い指に狐色の髪を絡ませたく、伸ばし、思い切り引き寄せ、案外簡単に手に入れてしまった。
ガタガタ震えている肩を押さえつけ、笑ふ。
独占より深く愛してしまい、何故に幾度も姦してしまいたいのか。

(愛しきモノが大切過ぎて触れられない?それは真っ赤な嘘である)


それをさすがに、君、分かっておられないので、腕に爪をたて一生懸命の抵抗を。
君からの爪痕は喜ばしい事であるのに、君は本当にヨク分かっていないのだ。

(せめて悦ばせて喜んでもらおうか)

そう思い、いつものような行為を無理矢理始めると、どうしたものか暴れだしてしまった。

「痛い?」
君に優しく聞けれども、
「…嫌い!」
と返って来たものですから――。

「じゃあ誰が好きなのか君は!」

ガツンと右手で頬を打ってやると、首だけをゴキリ鳴らしギッと真正面を見上げ可愛く威嚇する。
口から血を流していたので、それさえも愛しいと思い舐めようとするが、舌をガジリ噛まれ地平線の果てを見た。


噛まれた分を返してやろうと腰を動かしてみるのに、終いには君、腹を膨らませ息をあげている。

ア、と思い、突き飛ばす。
視る。
飲む、唾液と息。

「もしかして、君、孕んでしまったのか?」
「…うん」
「――まさか、」

膨れた腹は夢でもなさそうに蠢き、其れを愛しそうに撫でる白き手。
君は口から血を流しつつも、幸せそうに。ああ、それでは我が満たされない。

二度の艶事が出来ぬ事を知ると、孕む其れに絶大な嫉妬を寄せる。


君は其れを愛してしまい我の存在を忘れはせぬか、君は其れを愛し過ぎてしまい我の愛を感じ取れなくなってしまわぬか。
ならば其れ、無くなれば良いと思わぬか。

首を縦に振らない君の孕んだ其れ、を殴ってしまっていた。
もう失態はできないのだ。


「苦しいけれど、少し我慢しておくれよ」

首を横に振り続ける君の股の奥から血が出、出続け、ダラダラと流れ続けた結果、君は屍に。

「雷蔵、」

呼んで揺すっても二度と起きなかった事を強く記憶している。
孕んだ命以上に大切な君を土に埋めなければいけないとは、何と言ふ失態か。

何と、言ふ、失念か。


「何故孕ませてしまったのだろう」

土を撫でながら一人寂しく考えた。これからどういう風に生きてどういう風に君に追い付けば、

二人で死のうと言っていたのに、な。

「雷蔵が悪いんじゃないか、俺より孕んだ其れを大切にしようとするから」


もう一度冷たい土を撫でようとすると、その冷たき粗末な土がドキリと動く。
あっという間に自分の手を掴んできたモノは、確かに見慣れた雷蔵の可愛い可愛い右手であり、

「君がいなかったら僕は生きられないよ。」

そう言って。
(そう言われたならば、)



土から引きずり出して抱き締めて。
しっかりと顔を掴み合う。
「もう俺から離れては嫌だ、雷蔵」
「じゃあもう殺さないでね、三郎」
恥ずかしい思いをしながら言ったのに、君がもっともな事を可愛く言うもんだから、冷静に納得してしまったではないか。

それさえも覚束無い夢見だったけれども。


「君を殴り殺さないように、俺の腕、バサリと切り落とせばよい」
「ううん、いいんだよ、気にしないで」

両足の内側を血で真っ赤にしている名残。
それさえ魅せているのにも関わらず、君は何て優しい優しい宵子なのだろう。

「もう孕まないから、僕を嫌いにならないでね」
「雷蔵、君を嫌いになるなんて…」

(幾千年先でもないと言うのに。)




正し、
愛と殺意だけは絆を刻み刻み破滅へと歩むのだ。

end

性的フェティシズム(固定の人しか愛せない)











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