「三郎の小指は、小指じゃないみたいだ」

そう思う。そして、笑う君の歯の奥、もっと奥、ソコに小指を押し込めた。
毎日のように、三郎からされている事はこんな感じであろうに、少し、動揺。

あ、あ、と叫んで、爪を首に滑らせた。


「無理、本当に無理だよ、噛み千切られるなんて」
ん、と頷き、
「君は噛み千切ったじゃないか、」
キリリ、返された。


暗い冷たい床に転がった三郎の長い小指、見つめ、我ながらヨクやったと思う。
一刻もかかったのだ。

射れたまま噛み千切り合いましょうと、三郎が無理な事を言うもんだから。
一生懸命、繁々に。だけども息を吐きながら。


「ね、すぐすませるから」
「、うん…」


渋々頷き、再び温かくねっとりとした三郎の口内に、淡々と小指を入れる。
傷、歯、合わさり、悲鳴。

逃げるにも、腰と背中に回された長い手が、憎いこと悪いこと難いこと。
人間の叫び声、醜いこと。



「雷蔵、動くなよ。あまりにも気持ち良いから、チカラが、入らんだろう、」
知るものか、
射れたままシヨウと言ったのは、誰か、馬鹿。

ブランとぶら下がった自分の小指、見つめ、どうしようもない達成感。
引きちぎり、終わり。

終われば、宜しい。





「これは桜の木の下に埋めようか」

嬉しそうに小指二本を赤い糸でギッチリ、蝶々結びにして。

「三郎、それ、縦結びになってるよ」
「…縦結び?」
そんなことさえも知らない君って、やっぱり愛しいなんて、思うのだ。
可愛い、とか。


「雷蔵、もう一回シテ寝ようか」
「小指は?」
「明日、明日埋めよう」
「腐っちゃうよ、」

「――まさか」


赤い糸でグルグルに巻かれた、縦結びの、如何にも不器用そうな。
痛かった、僕は。三郎は?聞くにも烏滸がましい。

彼には感覚神経がないんではなかろう、か。
肩をガブリ噛むと「イタイ!」身を引く。



あれ、では、何故。
小指を千切る最中は、君、笑っていたの。

「ごめんね、せっかく可愛い小指を、俺のために」
「別に、僕は三郎が好きなんだから…」

傷を舐められ舐められ、それこそ血は出なかったのだが、痛くもなかった。
ああ、これこそ、



これこそ、痛み断ち切り経ちきりの、感覚神経遮断機99.99%確率的、愛、なのですね。

残り、小指二本、
桜になる。


end

アクロトモフィリア(手足が欠損したことに性的興奮)











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