吐きたい。
確実にそう思ったのは何年ぶりか、十年ぶりか、最近なのか。


「よしよし」

三郎がご親切に体を擦ってくれているのだが、明らかに手の位置がおかしい事は分かりきっている。
何故なら彼は生粋の変態であるからだ。

「よし、よし」

最早誰のせいなのかは分からない。
けれども、異物がジワジワと入ってくる現在は異様に顔が近い三郎のせいだと。

「らいぞ、気持ちいい?」

いや、気持ちいいとか悪いとか、お前は一体!
吐き気とは全く反対の、爽快そうな三郎の顔を今にも殴ってしまいたかった。
蹴ってしまっても、いい。けれど視界が妙計にボヤけているのは、


涎を舌で拭われたからに違いない。
「吐き、そう」
「それはいい、吐いておくれよ」
ニタッと独特の笑い方をされると、やはり逃げ出すには罪悪感が身体中を支配する。だが、その前に気持ち悪さが止まらず右手も上がらぬ。

多分、多分だ。
「薬を、盛った、な?」
「当たり!」
などと言うものですから。

僕はどうすれば良いのやら。このまま吐き気を我慢し三郎に犯され続ければ良いのか、そのまま犯されながらも胃液をぶちまけてしまえば良いのか。
でも僕が胃液を流せば三郎はどう思うのだろう。
いや、それ以前に僕の涎を舐めていたでは、ないか。

「どうしようどう、しよ、どうしよう」

更なる迷い癖。



「自分で吐けないの?」
「ん、ん?」
「手伝ってあげようか」

恐い言葉に首を横振り。
彼は眉を歪めた。

「もし俺が吐けないとしたら、雷蔵は手伝ってくれないの?」
その前に、僕は薬を盛ったりしません、けど。
「手伝ってくれるよね。雷蔵は俺の事大好きなんだから、」

蛇のようだとも思う。
そう、白蛇だ。

そして自分は、何かを忘れて締め付けられている。とすれば、


「雷蔵、ほら、口を開けてごらん」
「…ッ」
「もうちょっと、喉に手が通るぐらい」

確か下から犯されていたハズで、

「三郎、」
「ん?」
「まだ、入って、る?」

あんなに記憶していた鈍い感覚さえも、すっかり消え去ってしまっている。
どうにも落ち着かない。故に、必要だ。

「雷蔵はやらしいなぁ、吐きたいの?ヤリたいの?」
「…吐き、たい」
「あ、でも俺たち今ヤってるよね」

どうしてそんなに愉しむの。

「ほら、早く唇と舌を合わせて」
「うグ…」


押し付けられた壁が冷たく、三郎は温かく、なんという気持ち悪さ。
胃が悲鳴を上げまして、それはそれは綺麗に儀礼的でした。




「ね、雷蔵の胃の中にあったものが今、俺の中にあるんだよ?すごいと思わない?」
「…何で飲むの」
「え」



例えそれが、
胃に射れていたとしても。
ああそれが、

彼は、人間で。





「愛しすぎるんだ、雷蔵が。本当に可愛いなぁ」

ググと胃に指。
口に、舌。

「もう一回。もう一回でいいから、飲ませてよ」


彼は、温かい。
壁も、温かい。

胃は、生温かった。



end











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