「僕って、そんな表情しているの?」


簡単なことを聞いてくる雷蔵の足を強引に引っ張りながら、そうだよ君の顔は今、喜ばしそうだよと簡単に説明してあげた。
向かい合って何をしているのかだなんて、見れば分かるから一々雷蔵も俺も聞き合わないけれどね、これからどうなって行くなんてこと、雷蔵、君は知らないのに不安にはならないの?

「欲を吐き捨てて終わりでしょう?三郎、違うの?」

答えは言わなかった。
不安そうな顔を見た、
(案外間違ってはいない。別にどうしようなどと特別に思っているわけでもない、ただ)
「交わりたいんだよ。」

何だ、そんなことなの、安心したように雷蔵はにっこりと笑う。そして近場に投げ捨ててあったくしゃくしゃの丸まった紙を力いっぱいに、もっと潰す。
ぐじゅり、雷蔵の可愛い握りこぶしの内から、先程処理した白濁が、垂れる。

「それ、どうするの?」
「舐めるの」

赤い舌を覗かせながらチロちろ、雷蔵は決して大きい瞳を俺から逸らさなかった。またそれも、欲情になって貪欲な考えは止まらなくなっていた。
(色事とは病気と、誰かはよく言ったもんだ。)


「たまには雷蔵が積極的になってよ、腰揺さぶったりだとか」
「さっきしたのに、意地悪」
「そうだっけ」
「そうだよ、」

ふーんと流れる空気を吸うんだか吐くんだか分からなくなったまま、そのまま。クスリと鼻を鳴らして蝋燭が揺らめくその向こう、向こう側の大きな鏡に指を差す。赤い掛け物はきっちりと取ってたたんでいる。

「見える?カガミ」
「うん。」
「雷蔵の腰が映ってる」
「ン!」

さわりさわり、膝から太もも、腰を撫でると小さな声でやめてよぅ、と。はあ、ア、どうしてこんなにも!君が好きで好き過ぎて堪らない気持ちを抱いた俺はもっと奥底、求めたいだなんて!

「腰振って、雷蔵」
「じゃあこの手除けてよ、くすぐった、 あ」
「鏡見てごらんよ、嫌がる雷蔵凄くいやらしいんだ」

腰を浮かして突き上げてみたりした。バランスを崩したらしく前屈をして、刀傷の消えない俺の胸に倒れるもんだから、凄く発情してもう離すもんかと思う。それから軽く、二、三度上に突き上げると雷蔵の左肩を甘咬みしながら、ゆっくり上体を起こし鏡と向かい合わせに、跪かせる。
(どうしようか、この先)

「鏡と手を合わせて喘いでごらんよ、映る自分を舐めてみればいい。」

しばらくの間、息を吐いて鏡の表面、君ともう一人の君の間へ白い曇りが出来ていただけであったが、やがて自分自身に恋い焦がれるように、陥る。鏡さえに嫉妬をして、腕を掴んで、押しつけて割れるようにピシピシと亀裂を入れたいと、思わなくとも思いもせずに想っている。

「自分に責められて喘ぐだけの君は幸せなのか可哀想なのか分からないね、」

ふ、と鏡に映った自分と、雷蔵の頬は一緒の色に染まっていた。潤った目をしているのは雷蔵で、可愛く鳴くのも雷蔵で寄せた眉も開いた口も湿った睫毛も全部全部雷蔵、らいぞう。

(可哀想、)
「しあわせ、だよ」

鏡に押しつけられた君は、確かにそう言った。


end

エストペクトロフィリア(鏡に映ったものに性的興奮をする)











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