身体中を這う虫の色が綺麗だと記憶するが、耐える君もなかなか、脳裏に焼き付き刻まれ離れやしない。

「死んでも忘れられなさそうな顔、するんだね」

そして涙を舐めた。目は開いていないので、眼球を舐めることはできなくて不甲斐ないとばかりに、冷たいガラスへ押し付ける。
震えもせずに蒼白な雷蔵が身動き一つもしないのだから、金縛りにでもあったよう。
(隣に寝ていたら抱き締めてあげるのに、生憎隣に寝るのは三郎だもんなあ)
こんなときしか抱き締めてあげられないのだから、少し発情したっていいんじゃないだろうか。


なのに、
「お願い動かないでお願いだからあ!」
泣き叫ぶ指先、色っぽくて敵わない。

「どうしたの、雷蔵」
「お願いお願い!死んじゃいたくないっ」
「ああ、これのこと?」

丁度、雷蔵の胸辺りを這っていた人間殺戮好みの毒虫をひょいと掴み、ぽろんと下腹部に落としてあげた。
ビクンとなった肉体が毒虫に刺激を与え、蠢きを増殖させ、そのたび、雷蔵は涙を流しながらヤメテヤメテと懸命に叫ぶ、(俺にヤメテ?虫にヤメテ?どっちに言ってる?)

「そんなに叫ぶとほんとに噛まれて死んでしまうぞ」
腕に這い上がってきた毒虫を見つめ、自身にも死の間際があることを穏やかに感じる。それより、雷蔵の鳴き声が、可愛すぎる歪んだ顔が、虫の這う綺麗な姿が、嗚呼堪らないって、こういうことだと揺らめいてどうしようもない本当に。

「ハチだって、死んじゃうのに、僕だけじゃないのに、どうしてこんなことするの、いつも優しいのに」
「雷蔵と交わりたいからだよ、」
「だったら、いつものように布団で、布団の中でしようよお」
(泣くばかり、解せない。)

ちょっとした衝動でしたくなるって、分からないのかなあ、君。外の空気に触れず暗いガラス瓶の中で、飢えているんだ。満たせてあげたく、なるではないか、ねえ?
この透き通る大きなガラス瓶の中で、こうやって、

「動かないで動かないで動かないでえ」
「無理、興奮する」
(額をゴツンとガラスにぶつけて。ガラス瓶の中はキチガイだと聞くけれど)


「この毒虫、精液を主食とするんだって」


死ぬのは嫌だとあれだけ、動かないでとあれだけ、言った君が、ガチガチ、虫以上に動いてい、る。
厚いガラスにゴツゴツ手首をあてて、腰だって尋常じゃないぐらい(それは布団の中のお約束だったハズなのに。あ、もしかして虫が身体を這いずり回ることに感じているんだ、)


「ねえ、勿論お互い絶頂を迎えたら精液を垂らすわけだけど 」
はは、聞いてるかな、喘ぐので精一杯なのかな、
「俺のに噛みつくと思う?それとも雷蔵の体内に潜り込んで噛みつくと思う?」



ガサガサと騒がしいガラスの中は、交わったおかげか結露でずるずる、互いはぬるぬるしていた。
足底に溜まるのは、血か汗か精液か、死骸か、


云うけれども、ガラス瓶の中はキチガイばかり。



end

フォーミコフィリア…昆虫などが這いずる様子に興奮すること。











×