ピチョン、


はっきり天井から滴が落ちる音に身震いを確信。何処から落ちているのか、(僕は何処に堕ちているのか)蝋燭ひとつだけの灯りでは一概に、乏しい。

「ね、布団敷いてきたっけ、部屋。」

三郎の声が少し弱く響いた。雨風が吹く真夜中の浴槽だとしても、容易く外に聞こえてしまうのではないのですか、窓の戸をきちんと閉め切ってあるのにクチを手で覆ってしまうのは、眈々と僕の癖になっていた。


「らいぞう、まさか、寝てる?」
「…寝るわけ、ないッ…」
「うん、だよね。」

排泄をする場所からズルッと舌を引き出し、ぼんやりとした温かい湿気の浴室の床、に寝転がっている僕を上から見つめてくれる。僕も下から三郎を見つめていると、三郎の濃い舌舐めずりがよぉく、分かった。
(花蜜を吸うみたい)
綺麗な顔の顎からシタリ、僕の唇へ、雫。
(持ちきれない蜜でしょうに)


「汗、凄くかいてる」
「違うよ、雷蔵の、」
「うそ。」
「でも汗だかなんだか分からないね、ほら、これは俺の、だよ」

ジュク と 床に広がる僕の髪をかき集めクチに頬張り水分を飲み込んだ君。
(なんだか三郎のを頭に被ってる事実を知って急に恥ずかしくなってしまった。)
「汗、かもしれないじゃん…精液、とか」
「臭いで分かるだろ、雷蔵の鈍感。味で確かめてみる?」
「ッやだ、接吻やめて!」
「別に気にしないでもいいのに」
「僕が嫌なの!」
「はいはい、」

そう言ってかけ湯をしてくれた。太股にベットリとついた白濁は自然に洗い流されたけれど、太股に置かれた三郎の手は全く動かないどころか、上下に動き、ゾワリとする感覚を綺麗に残す。
(蝶の偽る黒い仮面なんかじゃなくて、透明な海に沈む鏡だようアナタ)

「…ねえ、クチ、汚いから綺麗に洗ってね?」
「汚くないのに、」
「汚いよ!」
「じゃあ雷蔵も、俺のを飲んだから洗って」
長い長い指がクチにグチリ。
(なんだか何も言えない)

激しさが増すばかりの雨音を微かに聞き入れながら僕の気持ちが、ぐちゅるりと複雑一回転。

「いい。精液と同じようなものだから…僕は、いいの」
「可愛い事言うね、」
(本当は三郎のだからだよ、なんて。いつしか君が言ったようにソックリそのまま返してしまいたかったのが、青い本音)





「愛し過ぎて怖い」
そう言われ腰を掴まれながら部屋に戻ったのは、あれから悠々に一刻も過ぎた他愛もない頃だった。
散らかった僕の机と三郎の整頓された机がひどく懐かしい。ああ顔が火照る。
(なにを今更恥ずかしがっているんだろう。きっと、こんな事を言われ笑われるだけだろうに)

「雷蔵、今更恥ずかしがってるの?」
(ほらね、)

「もう聞かないで、…早く寝ようよ」
「うん?シタイ?」
「そんな意味じゃ」
浴室のようにヌメリともしない黒い床、裸体の欣喜(きんき)。蝋燭だって何刻も前に空気と化したのに、見える見えない?(いいえ、見られて射るばかり。)

そんな意味じゃ
「そんな、意味、じゃ、な、い、よ。」
接吻されながらも大きく太いカイナに包まれながら、も。三郎のびくともしない肩を押し上げながらも、見上げて見上げて牢獄の隙間に焦がれるように。
解かれてしまった単純な結び目の腰紐は、蛇の蛻(ぬけがら)、のように拒み続ける紫の爪先。


「思うんだよ、」
「…なに」
「雷蔵の臓器を食い破る程に満たせられたらなって。」
「ねえ、さぶろお、僕が眉をひそめてるの、見てみぬフリするの?」
「ごめんね」
「…うん。」

(吐息、西洋式紅花)


「キモチイイ?」
「…うん、」


膝も肘も地に着き。テノヒラをあやふやの行方に溶かして融かして僕は、ムズムズと浮かんでは浸る快楽的モノに困った顔をするんだろうと、思う。
見えるのが散った僕の汗と影も揺らめかない床でよかった(その、ええと、綺麗な三郎の顔を見ちゃうと駄目なの哭けるの泣いちゃうの、愛しくて怖い。ほうら、君が言った通りに。)




唯、びくん と
「あ、――あ!」
腰と臓器が勝手に反応を始め耐えられないと言えば嘘つきになるばかり、そういうものでは、行為が終わったんだね、頚椎を食い破るように言って。
僕の腰を力強く持つ三郎の腕は、未だ緩まず。感覚も酷くイヤらしい。


ぎゅ う
(あ、れ、ぇ?)

「ああいいね、いいよねえ雷蔵の中!」
腰を抱き締めたまま一瞬も離してくれなくなった。感覚が止む気配は一握りの砂もない。
「ね、さぶ、ろう!ねえ」
(嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼!)



「早く抜いてっ抜いて抜いてヌいてよ三郎!」
「野暮だなぁ、精液ぜぇんぶ出しきってないんだけど。」
「違、これ、ちがッ、う」

ズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズル、ずるずる

「やめてやめて!」
「でも、イイんでしょ?」
(よくないよう、なんで、きちんと守ってくれないの、お約束。お腹熱い熱い胃と交えてしまいそう)


ガクガク首を左右に降って磔を拒む罪人のようにあしらえども、舌下に潜ったものが咲きそうに裂きそうに、助けて、とは何処か違う。
黒い椿を見たようで、少し驚愕して過ごしたいのかもしれない、(それだけ)、三郎は決して僕を放そうとはしなかった。



「こういう、こと、部屋ではシないって、言った、くせ、に」
ズルズルずるぅーッて、注がれているうちにクチからビチョビチョと出てくるのかも、ねえどうしよう。
「嫌だよ怖い怖いよイヤ」


ずるる、る、
「らいぞう、シてるのは、お前じゃないか」
「え、」

ぴちょん 、(ドキリ。)
浴槽で行為に耽っていながらもちゃあんと耳の奥底に傷をつけいった、水音。響いたの、同じ。同じだよ、教えてくれればよかったのに酷いさぶろう、酷い酷い、悦に入って漏らしてるよって、それだけじゃない馬鹿。
床に広がった自身の水の臭いが自棄にキライ。


「もうやだあ、やだよう三郎、ッさぶろ」
「らいぞ。抜いてあげるから、ね、泣かないで」
ゴクンと唾も喉元。
「抜いて雷蔵のモノが出てきても、ソレ舐めるから。ね、許してくれるよね?」
「…ッな、駄目っ!駄目駄目ダメ!抜かないで!」
(世界が終わるような顔の僕と世界が始まるような顔の君、やあだ、似合ってないよ僕たちどうせ好き合いたいから言いなりになるしかないんだ、喘ぐ僕)


「嫌だよ だ ー め 、」



惚けてる呆けてる!
ぼんやり戸口、の、奥を見ているようで見ていない眼の底は水面すら揺れずにユラユラ瞑りたい、のに。
「さぶろう?」
啜る音が生々しい。きっと今、僕の、じゃなくて、三郎の唾液なんだ今きっと平らに軋む床、は。

(さぶろう、)


「信じらんない。そこまでしなくても、ちゃんと離れないのに放れないのに」
「雷蔵だからするんだろう。それに君は嘘、嘘、離れて行くクセに嘘ばかり」

哀しい目が愛しい。
最初から依存の融解度なんてありはしなかったのに、全く。
(君ほどに歪んではいないけれど、君の好きより僕の好きが君を愛してると 思いたかった)


「離れないでね、」
「放すものか、」


身体をスルリと入り込ませてきた三郎に、単純に脚を開き受け入れてしまう僕。好き、好きなんだもの。


「率爾ながら御免なれと隠るる戯れ言、愛くるしい申し上げ失ひぬ、想ひ想はず夜雨なれば花腐。」
「眦を決して、引導せん」

ぐちゃぐちゃに混ざり合えば指先には触れずとも。
(愛の孕み方が、輪廻するように根刮ぎ千切ってわかったような気がするの、もう手のひらは満開の死んだ御花だったけれど、抱き締め羅列葬儀すれば、もう)

 混迷など、しない。

end

memo
鉢屋は雷蔵のなら何でも受けとめられるけれど、まだ雷蔵は無理。飲めるけど食べれない。全て受け入れてくれた後の鉢屋とは絶対接吻しない雷蔵。











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