季節外れとも言える笹の葉で、平助は笹舟を器用に作ると、それに花弁を乗せて川の水面へと浮かべた。

其れはサラサラと独りで舵を取り、小さな岩に当たって転覆してしまった。

「あーあ、なんだかあの笹舟ぼくみたいだ」
「転覆するところが?」
「うん、そして一生浮かんでこなくて水の中で腐って死ぬところとか」

平助はいじけるように小石を蹴った。
彼は唐突な言葉を時たま投げ掛けてくる。その意味は重い、そう斎藤は感じている。映る景色は全く自分と同じなのであろうか、又は同じものを見てはいないのだろうかと、考えは次々に、そして勝手に廻って行くのだ。

「なぁ平助、」
「…なに?」
「お前には笹舟はどう見えてるんだ?」

見下げると、川岸に座る青年は笑わず、誤魔化さずにゆっくりと喋る。
透き通った肌に透き通った瞳は、流れてしまった花弁に少しだけ似ていた。

「沈んで終わり、それだけだよ。笑っちゃうよね」

いつもと変わりのない声であったが、元気のない声でもある。何を悩んでいるのか、斎藤はよく分からなかったが、それを聞く必要もないと確信している。
(面倒だと思いながらも、何かと世話を焼いてしまうのは何故だろう。)
転覆した笹舟は二度と水面には現れない。

「あの笹舟は、きっと必死にもがいているんじゃないのか?お前みたいに」

ばしゃりと片足を川に突っ込み、斎藤は転覆した笹舟を拾い上げた。

「ほら、」
「わっ…冷たっ…!」

べしゃりと笹舟を手にしたまま平助の頬に触れる。



「お前、ちゃんと見えているんだろうな」
「…え…?」



水が涙のように頬を滑り落ちた。
真剣な顔を向ける斎藤から目を反らすことは出来ず、川の流水だけが耳を貫いては消えて行く。

「一、冷たいよ…」
「俺だって冷たい。片足川に突っ込んだんだ、俺の方が冷たいに決まってる」
「…それは一が勝手にしたことで…」
「口答えするな、ガキ」

ぐしゃぐしゃに潰れた笹舟が元に戻ることはない。寂しさを置き、破れるように其れは姿を消した。
(時間は止まってくれないんだね、ぼくは何時だって願うのに)


「何も見えないよ、一の胸しか見えない…」


風に乗って何かが消え去ると共に、何かが運ばれてきている。綺麗な色の花弁が、流々と川を下る。

「温かいね、」
「…まだ寒い。」
「ううん、一はすごく温かいよ」

ごめんね、有難う、そう互いに呟いたのは心の中だけであったと、浮遊する蝶は二人を見透かしていた。
振り向くと何もいない。

ただ、珍しくも桜の咲くような温かい日であった。


end


>>風花様
リクエスト有難う御座いました!
斎藤×(+)藤堂ということで、×なのか+なのかあやふやにして互いに必要な存在であるということを前提に書かせて頂きました。
ぶっきらぼうだけど、実は平助のことを凄く心配する一ちゃん。そんな一ちゃんの(意外な)愛の大きさに段々気付く平助…なんだかもどかしい話でした;

綺麗な雰囲気を大切にしたかったので春を題材にしております´`*
一ちゃんと平助大好きなので書く機会を与えて下さり、感謝致します!


130228











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