勘右衛門は首を傾げていた。 「なあ、雷蔵から豆腐の匂いでもするのか?」 あっさり発言すると「馬鹿か、てめぇ」とやる気の無さそうな声が返ってきたのだった。 振り向くと、案の定生気のない鉢屋が頬杖をついている。隣に座る竹谷はというと、追試で頭がいっぱいらしい。 「勘右衛門、豆腐と雷蔵を一緒にするなよ」 「え、あ、ごめん兵助」 すると久々知の隣で雷蔵が笑った。透き通るような笑顔が眩しい。この部屋は朝日しか当たらない。なのに何故…そこまで考えて止めることにした。鉢屋は眠たそうな目をこちらに向けている。 「尾浜くん、愚問だね。久々知君は豆腐が好きだよ、そして雷蔵も食べたがっている。なあハチ」 「ああ、今度こそ追試落ちたらマジやべぇ」 「会話なりたってねーよ」 三人の会話に雷蔵は続けてクスクス笑った。 「そんなんじゃないって」そう言って鉢屋の発言に苦笑する久々知は、耳まで仄かに赤く染まる。 勘右衛門は疲れたような溜め息を吐きながら、冷たい床にゴロリと寝そべった。 「今日は暑いな…」 涼しい風が教科書をめくる。一つの文机を5人が囲っていた。 寝そべった場所から竹谷を見ると、焦った顔がよく見えた。鉢屋はというと、胡座をかいている左足の貧乏揺すりがあからさまに酷い。 「勘右衛門、勉強する気ないだろ」 「やる気がないんだよ、兵助みたいには」 「兵助のやる気はどっちのやる気なんだか」 鉢屋の額に教科書の角がめり込んだ。雷蔵の手から繰り広げられるものは、いつも鉢屋を殺しそうである。 「さ、皆で勉強しよ!ハチ一人で凄く頑張ってる」 正確には追い込まれているだけだと鉢屋は思ったが、口に出すと今度は文机が頭にめり込まれそうで尚更言えなかったようだ。 「ねえ、勘ちゃんも寝そべってないで勉強しよう。ハチ見習おうよ」 「ハチはだな、追い込まれてるだけだよ」 鉢屋の心中を言っても、勘右衛門には何一つ飛んではこなかった。少しだけ鉢屋の貧乏揺すりが酷くなったのを見て、クスリと笑ってしまった。 そして、雷蔵の頼みは断れないといつかに聞いた久々知の一言を思い出す。それを納得したのは確かに今日のようだ。 「さーてと、勉強頑張るか」 ゴロリと寝返りをうつ。 (あ、れ…?) 寝返りをうてば皆の足元がよく見えた。デカイ足を放り出して座る竹谷の足に、貧乏揺すりが止まらない三郎の胡座をかいた足。向かいには同じく胡座で座る久々知に、隣で正座を崩したように座る雷蔵。 (けれども、) 何故だか机の下で繋がれている手には見慣れがたい。それは何度も何度も握り返して絡み合い、指先で情事を行っているようだった。 「なあ、兵助と雷蔵もさ、ちゃんと勉強しないと」 二人の絡む手を見つめながら唐突に出てきた言葉がこれだ。 「勘右衛門のことだろ、俺はもう課題終わるぞ」 「ふふ、勘ちゃんも早くしないと兵助に置いていかれちゃうよ」 「う、そ…!?」 バッと上体を起こすと右手をサラサラ動かす久々知が、ジッと勘右衛門の目を見ていた。 「ほら、置いていかれちゃうよ?」 雷蔵だって、キョトンとしているのだ。 「あーあ、勉強する気なくなったや」 勘右衛門は立ち上がり、机に散らばる課題と教科書を重ねる。 「こっちまで恥ずかしくなるって」 廊下に出て振り向いたのだが、久々知と雷蔵の手はまだ重なり合っている。 「いや、ホント照れる」 頭を掻きながらもう一度振り返ると、久々知と雷蔵の笑顔がとても幸せそうだったと、唯それだけが頭の中に残ったのだった。 end チセ様、リクエスト有難う御座いました! イチャイチャラブラブということで、平然を装って見えないところでは熱い久々雷を書かせて頂きました!人前ではなく見えないところで、しかも気づかれても手を絡め続けるという見せ付けの方が久々雷の絆を見いだせるのではないかと(笑) 勘右衛門は初めて挑戦させて頂きました!きっかけを有難う御座います´`* 100429 ← ×
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