手鞠のような、丸い青い花を手にしている。庭先にいくらでも生える花を、間近で見る度に雨粒も美しく見えていた。 「斎藤君は、どちらの色を好むのかい?」 唐突に聞かれ、しかし戸惑うまでもなく斎藤は答えてみせるのだ。 「紅が混ざる方が、どちらかと言うと…」 雨はやんわり降っているが、怪訝な表情を、目の前の男はふと見せる。 屋根瓦から連なって落ちる水滴の数よりも、その男の表情が気になり、斎藤は小首を傾げてしまった。 「紅は…、気に入らなかったでしょうか…?」 すると、そういった表情がころりと変わり優しい笑みだけが向けられる。 手中で踊る手鞠が、悦びを煽っているようだった。その手に触れられていたいのは、自身であるのか、もしくは青であるのか――。 「紅は、…私も好きだけれど」 知られてしまったように、冷たい指先で輪郭をなぞられる。 服部の手から零れた青を、気付けば愛しくも撫で上げていた。雪のように冷たい青である筈なのに、生暖かい箇所に触れて思わず、深い爪痕を残したくなっている。 「"紅"だなんて、それは遊女にでもあげるつもり?」 鼓動が聞こえるぐらい近くにいるくせに、いつものような接吻は無い。 腕をそっと握ってみると、そのまま手を握り込まれてしまい、ぐしゃぐしゃと青い花弁が膝に舞った。一瞬の終わりを見た気がして、斎藤は虚ろげな瞳を真っ直ぐに向ける。 「抱いてしまいたいと、君は遊女を想うんだね」 「……服部、さん?」 重なった花弁を一つ一つ、感情に似せようと幾度も千切ったのであろうか。 ぼとりと赤い紐を切ったように手鞠のような青は、天井からそのまま重苦しくも落ちて来たようだった。だが、その散らばり方は遠望の紅葉のようである。 「斎藤君、紫陽花の花言葉は移り気と言うそうだ」 「"移り気"、ですか」 「私は嫉妬しているのだろうね。君を縛りつける理由なんか、在りはしないのに…」 風すら吹かないまま、何処にも行こうとはせずに。庭に咲いている紅も何もかも、ザワザワと揺れはしないのだ。そればかりか、心が苦しくザワめいてばかりである。 哀しさは理解してしまったのに、この人は幾分狡いと斎藤は思ってしまった。しかし笑みは僅に零れている。 「…そんなの、別に、…だったら……どうして触れてきてくれないのですか」 「それは――、」 「"あなたは冷たい人"ですね」 クスリと笑った。 広がる翠雨の中に万点の水蛍などはいない、情欲は御脳を駆けて漂っている。 「困ったな、以て暝すべしじゃないか」 掬うような手つきで花弁に触れると、同じように服部は愛しい者の手に触れた。 それを閲して不明瞭に抵抗が失われていれば、それはもう、応じたように隠れはしない。 「でもね、斎藤君。本当の意味は"辛抱強い愛情"って言うんだよ」 「じゃあ、服部さんの方が間違っています」 握った指先の温かさよりも触れた所の温かさは、艶やかに生温い。 降る雨の音が何かを消しているのは確かだった。 「斎藤君は白い紫陽花の花が似合っている」 「しろ…?」 「紅色の紫陽花が好きだなんて言わないで、今度言ったら許したくなくなってしまうから」 「すみません、なにとぞ御容赦を」 見上げると、雨は静かに降っていた。それはそれは、何かの艶事を秘めるように冷め醒めと。 end リクエスト有難う御座いました! 大人な服部さんと一ちゃんの愛ということで、服部さんなら大人なダンディー路線で花を例えて愛を伝えるんじゃなかろうかと…!やはり大人の愛っていうのは何でも愛に置き換えるというか、何かしら雰囲気が妖艶を秘めているというか…。妖艶の「よ」の字も表現できなくてスミマセン!でも個人的に服部さんと一ちゃん大好きなのでハマりながら書きました(笑) 有難う御座いました!楽しかったです´`* 100718 ← ×
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