よく晴れた日より、曇りのような日が好きだった。言えば似合わないだとか、らしくないだとか、あまりにも皆から言われるものだから、いつからか俺は無意識に黙って晴れが似合う男になるようにしていた。


「もうすぐ雨降ンのかな、風が湿ってる」
「うん、降るよ」
「ギャアア七松先輩!」

ぼさっと眺めていた視界が七松先輩になるまで、全く気配に気付かないとは。結構昔の記憶に想い更けっていたのだと自己嫌悪する。
別に思い出したって流れるだけで、それをどうにか出来るわけでもないのに。

「考え事してた?」
「…え、ま、まあ…」
「いっけないんだ、考え事なんかしてたら竹谷、確実に今殺されてたよ」

そう言って首を切る動作をした。笑いながら行うもんだから、緊迫なんてものは有りはしなかったけれど、これが本物なんだって思えば、俺は血まみれなんだって、静かにゾッとする。

「…竹谷?」
「え!あ、何ですか!?」
「何か悩んでるの?」
「ええと、悩みではないんですけど…」

気付かれては次にうつ手段すら無い。第一、相手は七松先輩だから嘘はつけないと自身で悟っている。
言うべき次の言葉すら出ないんだな、こういう時。見透かしてくるのも、きっとこの人の生まれつきの性質なんだ。ああ息が切れる。雨の匂いが舞っている。

「俺、晴れが似合ってますか?」

しりごみして遂に出た言葉がまさかコレだとは、正直自分に驚いた。それ以上に目を丸くしているのは七松先輩の方だ。瞳の中には困惑した俺が映っていた。なんて顔、してるんだろう。

「どーでもいいんじゃない」

その言葉に愛嬌すらなかったが、御世辞もなかったことは救いである。

「どーでもいいって…」
「似合う似合わないは本人を見ていない理由に過ぎないから、私は嫌いだな」

先程から覗き込まれた顔に意識をしていたのか、僅かな表情に鼓動が早くなっていた。
眉間に皺を寄らせて、ああ珍しく困ったような顔もするんだなって、そういうことも兼ねて思いやりを感じてしまうほど。

「七松先輩、そういう顔似合ってないですよ」

身動きが取れなかったことを鮮明に身体が記憶している。肉薄でもあるまいし、難儀でもないし、わかりにくい意味内容な言葉だと不十分に垂んとした。


「なっ、何するんですか…!」

思わず左手の甲で唇をゴシゴシと拭く。平易でない事柄に悩むことが、非常に小さく感じてしまった。欠けるような難しいことをして、この人は何をしたいんだろうか。
(アア、不貞腐れたい)

「お前、逃げ水だな」
「え?」
「なあ竹谷、我慢出来ない事に耐えるのが本当の我慢ってもんじゃないの」

またもや視界を塞がれた俺は雨の匂いを嗅ぐだけで、雨の姿すら見ることは叶わなかった。

「いくら生物委員だからって、苦虫を食いつぶしたような顔はないよね」
「今っ!生物委員を馬鹿にしましたよね!?」
「してないって」

不愉快でないことは、七松先輩より自分に聞けば一番よく分かっている。
(迷惑なのに迷惑に思わないのは――、)

この上もなく俺は満足しているようだった。

end


リクエスト有難う御座いました!
こへ竹は初の挑戦ですが、こへ竹は大好きなCPの一つでもあります´`*機会を頂け嬉しかったです!


100620











×