三郎にはきちんと言ってある。僕が委員会の集まりに行くことも、そして僕が尊敬している中在家先輩と会うことも。

「…っふ、ぅ」

けれど僕がこんな声を出すことなんて三郎は知っていないし、中在家先輩と鍵を閉めた夜更けの図書室で、欲と色に溺れ合っているということも勿論知らない。
知ったら三郎は、泣いて自殺でもするのかな。だって、三郎は僕のことが大好きで仕方ないんだから。

「先輩…」

甘い声で呼んでみる。しかし、どうして中在家先輩と僕がこんなことになっちゃったのかは、僕は知らない。
(どうしてだろう)

「不破、…なに考えてる?」
「あ、」

僕が知ったこと、それは中在家先輩の本当の優しさだった。本当じゃなくても十分優しいのに、僕は狡く卑しくも本当の優しさを知ってしまった。
行為がこんな風に一心になってしまっても、僕の頭を撫でて腰を抱き、少しだけ離れた身体を何度も何度も抱き返してくれる。

「今、一つになれてますよね…?」

聞くと優しく見下ろして微笑むのだから、僕は堪らなくなって首に回した手を緩め、頬の傷を撫でて唇もなぞるのだ。

「一つになれてる」

ゆっくり抱き起こされると、結合部からゾワゾワとした感触が堕落に這い上がった。僅かに仰け反ると、鎖骨を舐められ首に噛みつかれてしまう。

「動物じゃこんなの、食い千切られて死ぬ間際を見るだけなのに、人間は愛情表現になるのですね」
「…噛み千切られても、それは愛情だ」
「どうでしょう」

抱き締めてくれている手を擦りながら、ゆるりと腰を回してみた。ぐちゅりと水音が鳴るたびに、中在家先輩は僕を真っ直ぐに見る。散々こういうことをしてきたというのに、まだ慣れないなんて――。

「僕が慣れたのは此処だけみたいです」

お尻を割るような手つきで、そのまま結合部である根元を指先で触れた。

「中在家先輩の、大きいから」

悪戯に耳へ息を吹きかけてみると、僕を抱いた手が更に締まった。
それから余裕を与えてもらえないぐらい激しく何度も求められて気がイってしまいそう。

「そんな事言うと、止められなくなる…」
「止めないでいいです、から…先輩」

重なる度に本棚からドサドサと本が落ちる。どうしてこんなに粗末なんだって、昼間には分からない。中在家先輩の表情だって僕が握る手先だって。

「あ、…!」

不自然に作る床の染みだって。



翌朝、委員会が長引いたと一言いって食堂に入ったとしても、誰も怪しみはしないの。
三郎には仕方ないでしょ、それだけを伝える。(ちょっとムスッとするけれど、それはいつものことだから)

「あ、中在家先輩。今日の朝食、山芋のとろろですよ」
「夕べを思い出す…」
「せっ、先輩…!」
「どうした?少し顔が赤いが」
「変なこと言うからですよ…!」
「不破は、照れると可愛い」

ちゃんと不破って言ってくれる。僕だって、迷わず言ってくれる。間違えたことだって間違えられたことだって中在家先輩には無い。
(好き、だな…好き。)


「中在家先輩と引っ付いていられるなら、僕どうだっていいんです」

俯いたまま隣に座る先輩の袖をギュッと握った。
反応が怖くてゆっくり瞼を開けてみれば、いつだって優しい瞳がある。

そして朝から耳元で囁かれた言葉は、手を握られてからスグだった。
「私も、不破が好きだ」

思わず、箸を床に落とした自分がいた。
(だけど、幸せな気分になるのは凄く当たり前だ。僕だって中在家先輩のこと、)

無言で手を握り返すと、僕の好きな人は今日も優しく微笑んだ。
(首、抱き締められながら食い千切られてもいいや、先輩だもん)

end


リクエスト有難う御座いました!
六年×雷蔵とのことで、長雷書いてみたい!と悶々来ましたので初の試みを致しました´`*
雷蔵は長次のこと大好きだと思います。


100923











×