「痛みって何なのか、三郎には分からなくなっちゃったんじゃないの」 首を絞められながら哀れな感想を述べた。我ながら馬鹿だと思って苦しめば、彼は笑っているのだから余白は白に成り得ない。 黒を見るけれど、それから再び、痛みというものに引きずり戻される。 「雷蔵、痛みぐらい分かるよ」 「じゃあ嘘つくのやめて」 「本当だよ」 「じゃあ、僕を殴るのをやめて」 病めてと言うならば三郎はもう遅い。何を見出だしたのかは知らないが、余計な昂りは無い方がよろしい。 ぼーっと考えながら咽頭を伝う濃い鉄の味に、更なる吐き気さえ覚えた。 「痛みより嫉妬の痛みが痛いよ、重いし」 「…ッぐ、ぅ」 「そうやって胃液を吐いちゃう雷蔵見てると、落ち着く」 僕の髪の毛を無理矢理に掴んでいた手は、お腹をえぐりだす。鈍い音をたて、沸き上がるものを全て吐いた。吐くものがないと涎は胃液を庇うように流れて行くのだ。 こんなにも、身体の受ける副作用は強かったのか。 「…はーッ、…は」 ゴトンと頭を床につけた。けれどもそれが楽しいとでも言うように、三郎は人を殺すようなものを持っている。 「殺すの?」 「ううん、雷蔵は殺されるんだよ」 (悲鳴って何だろう、出せない殺され方ってやはり、一直線に喉元を刺されることなんだろうか。ベキンと音がした) 「痛い、また殴るなんて酷いよ三郎。僕の首まだ繋がっている?」 「うん、まだ繋がっているよ、骨は折れたみたいだけれど」 ザクザクと音がするのに、僕は死にに行くのかは知らないが、痛いという感覚が無知になった。 よっぽど頬を打たれた時が痛かったのだと思った。 「ああ、どんどん血が流れていくよ雷蔵」 「…うう、」 「君の身体を作る細胞を一生かけて数えるんだ。死ぬまでね。でも多分一生かかっても数え終わらない気がする。なんでだろう、終わりのない数字って怖いね、ななつでウンザリなのにとぉはまだまだ。結局俺は何を数えたかったのだろうと気付くのかな、」 (病めて病めて病めて) 「三郎、病めて」 震える上がらない手で三郎の肩に触れようとしたのに、左手の小指を折られてしまった。 「愛を数えてるんだよ、そうだよ愛だよ。そりゃあ君の細胞は一生数えきれないよなぁ、愛しすぎているんだからさあ」 暢気だなあ、僕はそろそろ何処かへ行くのに。 そう思って折られた小指を見ると、とても青かった。 「無意味なこと好きなんだ?」 だがしかし、そんなことを男は聞いちゃいないのだ。 end 加奈子様、リクエスト有難う御座いました! リクエストされたキーワードをちょこちょこ出しながら消化していきましたが、凄く悲惨なお話になりました;書いていて楽しかったです!リクエストどうもでしたー´`* 100429 ← ×
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