「蛇は、好きか?」 唐突に仙蔵はそう言った。しかし文次郎は横目も寄越さず、必ず一言を喋る。 「嫌いだ」 そんな会話さえ鬱陶しくも思わず、仙蔵は同じ事を繰り返すようになってから三度目になった。 そこで初めて溜め息と言うものをつく。もう右手で蛇を触ってはいない。その右手で、今は頬杖をついている。 「文次郎、お前に心変わりというものは無いのだな、私に四度同じ質問をさせる気か」 「さっきの質問で四度目だ、次で五度になる」 「お前細かいぞ」 「心変わりを期待しても無駄な話だ」 「へえ、しないのか」 「しない」 頑固だと思ったが、それ以上に頑固者だとも仙蔵は思う。さすがにそれを言えばお前が頑固者だろうと言われて御仕舞いの筈だ。 (いや、しかし似ているとは思わん。思いたくもないがな) けれどもこの目の前の男を蛇のようだと思うのだ。 「仙蔵は蛇に似ている」 「は」 「雰囲気。」 「…何故わたしだ、蛇は文次郎だろう」 「何で俺」 「なんとなくだ」 確かになんとなくではある、けれどもさっきまでとの蛇との感覚とは、全く皆無である。 分からなくなって首を傾げると、文次郎は目を細め、少しだけ笑ったような気がする。茶色でもない目の中は、彼らしくもあった。 「蛇は綺麗だ」 そんな彼らしくもない事を言って、仙蔵の決して茶色でもない目の中を覗くので、また首を傾げるに及ぶ。 可笑しさが在るのだとすれば、それは何なのだと追及するにも果てしない。 (確かに文次郎が照れた時ほど可笑しいものは無い) ――そう思っている。 「似てるんだな」 「何がだ、」 「お前が、蛇に」 「それは遠回しに良いことを言われてると捉えても?」 普段から沈黙など気にもしないのだが、何処か違和感を覚えてしまっては不快感を感じている。 仙蔵は頬杖をついたまま、目だけを下へ伏せた。文次郎の目が何を見て何を思うのかさえ分からなくなってしまっては、別にどうでもよくなっている。 (何を言いたいのだろう) そんなことを思っては仙蔵の睫毛ばかりを見てしまうのだ。 「だから、その、蛇は嫌いだが蛇に似ているお前は好きだ」 「…とんだ言い訳だな」 「心変わりはしない」 「さっき聞いたぞ」 「違う、そっちじゃない」 やっと目が合ったというのに、すぐ逸らす行為をすることはどういうことなのか、黙っていてもよく分かった事である。 そんな文次郎を見て、仙蔵は笑うでもない表情で口角だけを緩く上げた。 「お前を好きだということが心変わりしないという意味だ」 その顔が大好きだった。 目が鏡のようになれば離れて欲しくもないが、放したくもない。一層硝子のようにしてしまって、弱さを知りたいとも考える。 「恥ずかしいことを真剣に言うのだな、お前」 声をあげて笑ってみたが、返した言葉は言われた言葉そのままである。 (幸せ、とは言わん) 秘めた事はお互いに、どうにも同じであるようだ。 end リクエスト有難う御座いました! 文仙♀ということでしたが、現代でも室町でもお好きな方で捉えて頂ければ幸いです´`* 文仙♀だからこそ文次郎が引っ張っていく感じ(?)にしてみました。 文仙大好きなので凄く楽しかったです! ← ×
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