「おめでとう」 口々に三人からそう言われ、鉢屋の目の前には甘ったるい西洋のお菓子が、ズイと差し出されたのだった。 「なにこれ、」 「お菓子だよ」 「うん、そうだね雷蔵。おいコラ豆腐、これはなんのマネだ」 「お菓子だよ」 「ウッゼェエお前なんか全然雷蔵に似てねぇ!」 ガタンと食堂の席を揺らし立ち上がった鉢屋に、武道大会の優勝祝いだと竹谷が大きな手を鳴らす。 誰もいない食堂に乾いた音が鳴り響いたのは、休日の夕刻前であった。 「……。」 まだワケが分からないのか、黙り固まっている鉢屋に「感動したろ」と竹谷は聞くが、雷蔵の手だけを握りしめて感極まっている。 「凄い嬉しい!雷蔵!有難う!うまそう!」 お菓子を持ち上げ、頬擦りするように愛くるしく、抱き上げるように扱い続ける姿は、竹谷と久々知を一層イラッとさせたのだった。 「ね、もしかしたらさ、俺ら三人で作ったとか思わないわけ?」 「お前らはいいんだよ、なんか付属品みたいな感じだから、雷蔵がメイン」 外の鳥が明るく鳴く。 早朝でもないのに、妙にその場は清々しい。睫毛をバサバサ重ねながら、久々知は細い目をしたまま頬杖をつく。溜め息とは言えない呆れた空気が鼻から出た。 「はっちゃん、もう何言っても一緒だ。こいつ雷蔵バカだから」 「うん、よく理解できたよそれは」 丸っきり、テンションの亀裂があるまま、雷蔵だけニコリと喜ぶ鉢屋に笑みを向ける。 「三郎、残念だけど僕は果物飾っただけだよ、兵助とハチが作ってくれたんだから、ちゃんとお礼言ってね?」 「え、」 一瞬にしてなんとも逃げ切れない空気に変わってしまった現状に、打破出来ないまま動きが静止するなり、黒々とした目の久々知とボサボサ頭の竹谷がどうしても死神に見えてしまう。敵に囲まれた感覚を覚えずにはいられない鉢屋は、スッと台にケーキを置いた。 下級生が外で遊んでいるのか、開いた窓からは高い声が微かに聞こえる。 「…このケーキ、雷蔵の身体に塗って食べてもい「気持ち悪い、やめて、近づかないで何処か行ってサヨナラ。」 シーンと静まり帰る食堂。ただ、「食えよ」という重い無言の空気化したメッセージが鉢屋を取り巻くのだった。 「あ、団子買ってあるから、三人で食べようよ。」 「賛成」 「じゃあな、三郎」 ガタガタと椅子を揺らして立ち上がり、三人分の足跡は廊下の奥に消えていく。 残された鉢屋はケーキの端を舐め取るなり、「甘い…」と切なさそうに呟いたが、廊下からは「三郎って気持ち悪いよねー」という楽しそうな雷蔵の声が響いているだけだった。 end リクエスト有難う御座いました! 鉢屋を祝おうとして色々あって気持ち悪がられるということで、雷蔵が作ったもの以外は食べようとしない鉢屋を書かせて戴きました。彼の最終手段は雷蔵の身体に塗って食べようとすることです。 なんだかうまくギャグになれなくてすみません! 090430 ← ×
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