苛々する、と言えば勝手にしておけと言われた。苛々した、と言えばお前は人を斬ったことがないからだと言われた。
叫ばれたときには、いくら僕が大人でも手が震えたが、それを言えば君は鼻で笑って
「ガキ」
と言うのだろう。

現に今、障子に背を向ける君に言われて少なからず拳を膝の上で握ってしまっている。敵うわけもないが、ならば何処で差がついたのだろうかと、君と僕は一緒であるのに。


「お前はいつまで死人に拘るのだ」
「し、死人なんかじゃないよ…!山南さんは…」
「山南さんは土に還ったが?まだ生人と言うのか」

重りが首に引っ掛かり切断されそうだった。見上げると何も感情を浮かべてはいない一は、鯉口を切らない。何も思ってくれてはいないんだろうね。
寂しく感じたって仕方がないけれど、僕は僕が嫌でどうしようもない感情が露に押し寄せてくる。此れを如何に沈めればよいのか、よく分からなくなった。


(僕の頭、ちゃんと色を見分けておられますか、)
「嫌になるんだ、全部。全部全部死んじゃえだなんて思うよ、僕は一体どういう事を考えてどういう風にしたいんだろう」
(僕の視界、歪みに歪み申し上げます。)

もう何も分からなくなるぐらい、踏み込んだ。一は僕の右手を逃さない。いつまでたっても一は、僕の手を離さない。きっと、斬るつもりだから、君は離すと同時に殺してしまうから、恐らくそうなのでしょう。



「俺は人を殺したことのない奴は大嫌いだ。人を殺さぬと、馬鹿な考えしか頭に浮かんで来ぬのだ、おまえのように」
「じゃあ僕が一を殺しても構わないの…?」

するんと抜けていったぬるい手は、名残惜しく感じたが、一は初めて僕に微笑みかけ、そして何処かに姿を消したのだった。

やっぱり僕はどうしていいのか分からず、今日も花束を携え墓を訪れに行くのである。
「どうしたらいいんだろう、僕は死ねば助かるのかなあ」
線香の匂いだけが廻りを彷徨いていた。


end



リクエスト有難う御座いました!

友情出演は斎藤ということで(笑)大好きな山南さん死後、平助は情緒不安定が長く続いたのではないかなーと予測した話にしてみました!凄く楽しかったです。暗くなってごめんなさい!




090430











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