自分が殺した人間が、どうして刀を持ったまま草むらに倒れているのかさえ分からないほど何も考え切れていなかった。ただ、勝手に襲われる死後硬直か真冬の痛い冷たさのどちらかだけだと言うのに。僕は弱い弱い、苦しい思考ばかり携えてる。

「雷蔵、脚が冷たいぞ。早くお帰りよ、」

ハチは馬乗りになっている僕の脚をさすりながら胸に置かれた手を握ってくれた。
(そんなことしないでいいのに、そんなことも言わないで、それにお帰りって意味分かって言っているの?意味分かってるなら言わないで、分かってなくても言わないで、温かい手で握らないで、ねえ)
まるで死ねそうだった、このまま二人で。

「ハチこそ、僕を殺して早くどっか行っちゃえばいいのに」
「…朝陽、一緒に見ようかと思って」
「ッやだ、放して!死んじゃえ」

僕も早く殺してしまえばよかった、君も僕の名前を呼ばなければよかった、そうすればこんな辛い思いをしなかった。普段通りで終わらせる事が出来た任務だったのに。振り下げるだけ、首に刃を通すだけ、私情なんて消えてしまえばいいのに。

「ほら、刀に手を添えてあげるから。一気に下ろせばいい」
「や」

トスンと軽い音を立てハチの鎖骨に刀が落ちる。指のひとつひとつが震え、柄すら握れなくなっていた。切っ先で皮膚が傷ついたのか、僅かに血が滲んでいる。息を吐きながら見つめていると視界が逆転し殺される側になってしまった。薄い紫色の夜空は綺麗なのに、僕の目は血で見えなくなっちゃうのだろうか、
(怖い、朝陽が見たい。)

「俺の仲間は殺したクセに何を躊躇っているんだ、俺たちは敵同士だろ」
「躊躇うよ、だってハチのこと…」



(欲の捌け口にしていいよって言ったのに、聞こえなかったのか、ハチは僕を優しく扱い過ぎた。)
おかげで爪の間に土は少しも入らなかったし、口の中にも砂利の味はない。朝陽が屍と赤い雑草を照らしちゃうからと木々に隠れて、最後の最期だったね、お互い一生懸命あんなに繋がってしまったの。

「さよなら、ハチ」

刀で貫くと、驚いたような顔をされた。僕は初めからこうしようと思っていたよ、だって敵同士だって先に言っちゃったのはハチの方なんだよ。(僕だって迷わない事はあるんだから、)

腹部からジワジワ、中身からは寒気が襲って意識も薄くなったので倒れると更に深く刺さった。
なにやらハチが叫んでいる、抱いてくれているのに触れられてる感覚なんて最早微塵もなかった。

何を言ってるの?
(だから僕言ったじゃないか、ハチのことずっと大好きだったから僕が自害しなきゃだねって。馬鹿だね、冗談なわけないじゃない。
 さよなら)

end



mina様リクエスト有難う御座いました!!
死ネタでも構わないということでしたので、思い切って死ネタにしましたすみませんすみません!しかも勝手に卒業後で竹谷と雷蔵は敵同士で出会っちゃいましたみたいな´`竹→雷なのに最終的には竹→←雷になっちゃってる…嗚呼謝ることばかりです。




090316











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