かしこ(伊作)

そうやって、手紙の終わりに何度でも。
だけど、いくら書いても僕は返事をもらえない。どうしてなのかは考えたくはないのだけれど。それは、僕の大好きな君が、亡くなってしまったからだなんて、認めてしまうことにつながるもので。

「君が死んだ春は嫌いになったよ、僕はいつ死ぬのかな、君に会いたい」



秘密の海(勘雷)

「雷蔵と水葬したい」
「離れ離れになっちゃうよ、波が荒いと」
「縛るんだよ、身体を」
「痛いからダメ。埋葬ならずっと一緒にいれるのに」
「それはもっとダメ、誰も邪魔されないように深く沈みたいんだ」
「もう溺れているのに?」
「うん、」



私という名の何か(鉢雷)

「"鉢屋三郎"という名ばかりが俺であって、俺自身はどこにもいない」
「僕が触ってるのが"鉢屋三郎"。ほら、ちゃんとここにいるじゃない」



幼獣(竹→←雷)

「ハチは僕を救ってくれる大きな獣だよ」
「獣って…。」
「だって髪の毛ボサボサなんだもん」

(笑いながら無邪気に触れてきてくれる君が愛しくて、俺はうまく笑えなくなる。君が望むなら俺はいつだって君の側にいて君を守りたいと思っているよ。)


「ハチは僕を救う代わりに僕を食べちゃうの」
「そんなこと言ったらマジで食っちまうぞ」
「うん、いいよ。いつも助けてくれるお礼だから」

(冗談のように君は笑うんだね。僕はハチになら食べられてもいいのにな、)



無いより有るがひどくこわい(立花→←潮江)

「私は一人で十分だった、筈、であった。なのに、枯渇するこの気持ちは何であろう」
「解らないのか…?」
「文次郎、お前には解るのか?」
「ああ、…互いに寂しいのだろう」



私の知る中で一番哀しい人(利→土井)

「土井先生、」
「なんだい利吉君」
「先生は心の底から笑って下さらないのですね」
「え、いきなりどうしたの…?」
「何でもないです、そういう土井先生のことはあまり好きではありませんから」
「何それ…。」



海の隙間を縫うひと(タカ丸+綾部)

「タカ丸さん、日の出は嫌です。太陽が二度と出ないように海と空の境目を縫ってきて下さい。」
「え〜…日の出綺麗なのに。そんなことしたら朝が台無しだよ」
「朝は嫌いです…」
「…うーん、じゃあ布団一緒に被ろう。そうしたらいつまでも夜だよ」
「そうですね、タカ丸さんと僕の境目を縫った方が早そうです」
「綾ちゃん、縫ったら痛いよ」



血のつながっているだけの誰か(鉢屋)

「つながっていれば良いという問題ではなさそうだ、殺した後に血がつながったとしても、それは全て他人事になるのであるから」



国境(五ろ)

「寒い寒い寒い寒い…」
「あーッうるっせェな!雷蔵と俺の愛の巣(部屋)に転がり込んできた分際で!早く寝やがれ!」
「だってよ…俺の部屋マジ寒いんだって…!」
「つーか俺らの部屋にきて寒いと呟く時点でどの部屋も一緒なんだよ!!気付けよ!お前どこまで馬鹿なんだよありえん!!」
「寒いぐらい言わせろよ三郎!お前あれな、いちいちうるせータイプな!お前女だったら超めんどくせーヤツだよ!布団一枚ぐらいよこせよ!!それか俺をお前の隣に寝かせてくれ!!」
「キッショ!!誰がお前なんかと一緒に寝るか死ね!!通行手形持ってても布団にいれんわ!!」
「ああそうですか!!ハイそうですか!!通行手形焼いてやるよ!俺は一生国境越えしねーよ!あーあ!故郷に帰りたかった!!マジ三郎のせい!あーあ!!」
「ハチ…僕の布団で一緒に寝る…?僕のところは通行手形いらないから…」
「入国します」
「八左!!!お前なにちゃっかり雷蔵と一緒に寝る特権いただいてんだ!!」
「じゃあな三郎、俺の布団は好きに使っていいから。俺は雷蔵という故郷へ帰るよ」
「俺が寒いだろうが!!つーか三人で仲良く川の字で寝た方が温かいと思うんだけどな俺!!」
「ごめん三郎、ハチと僕でいっぱいいっぱいだから」



ゆびきりげんまん(食満)

そう言って子供みたいに約束事をした春を覚えているだろうか、お前は。

約束事をした小指はもう無いが、許して欲しいと願うばかりだ。
手紙さえ書くことのできない俺を、許して欲しい。お前からの手紙を読むことのできない俺を、許して欲しい。

「お前が、大好きだった。しかし俺はもう死んでしまうだろう」

伝えておけばよかった。大好きだ、と。



「春の暖かさはお前のようだ。いつ生まれ変わるのだろう、お前を探して大好きだと伝えたいよ」











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